事業承継とは
事業承継とは、経営者が店舗や事業の経営権・資産・顧客基盤を後継者や第三者に引き継ぐことを指します。親族内承継だけでなく、従業員承継、同業他社への譲渡、M&Aによる引き継ぎも含まれます。
飲食業界では、経営者の高齢化と後継者不在を背景に、廃業ではなく承継によって店の灯を残す動きが広がっています。2026年8月時点では、国の「事業承継・M&A補助金」(旧・事業承継・引継ぎ補助金)が事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠の4枠で再編されており、承継後の設備投資からM&A時の専門家費用、統合後のPMI費用まで幅広くカバーする制度に拡充されています。2026年9月時点で第16次公募要領も公表され、継続的に制度が動いています。
飲食経営にどう関係するか
個人経営の老舗ほど、事業承継の課題が表面化しやすい構造があります。50年続く錦糸町のろばた焼「海賊」が鮮魚居酒屋20店舗企業に承継された事例や、松本の老舗焼肉店「青華山」が3代目への世代交代を機にリニューアルした事例のように、老舗の看板や常連客を維持しながら経営基盤を強化する承継は各地で起きています。
一方で、承継の担い手が見つからず閉店に至る老舗も後を絶ちません。徳島や大宮、鹿児島、倉敷、大分などで70年前後続いたパン屋が相次いで閉店しており、地域密着型の小規模店ほど後継者不足の影響を受けやすい実態がうかがえます。町中華でも、2026年1〜7月の倒産は22件(前年同期比69.2%増)と15年ぶりの最多ペースを記録した一方、2026年1〜5月時点の別集計では倒産が前年より減少するなど、物価高と後継者難、そして町中華・ガチ中華ブームという追い風が同時に働いている複雑な状況です。
承継は「同業種の実家を継ぐ」だけでなく、業態転換を伴うケースも増えています。北九州市小倉北区では、両親が18年営業した中国料理店の店舗を子が受け継ぎ、中華そば専門店にリニューアルして再出発した例があります。修業経験や独自の強みを活かして業態を変える「承継型リニューアル」は、老舗の資産(立地・屋号・常連客)を残しつつ新規開業のリスクを抑える手法として参考になります。
大手チェーンでも事業承継・M&Aは経営戦略の一部です。すかいらーくが買収した資さんうどんは関東・関西出店で高収益化に成功し、当初の「高値掴み」批判を実績で払拭しました。スガキヤでは創業家3代目の社長就任と傘下事業のMBOによる切り離しが同時進行しており、承継と事業再編が一体で進む例といえます。
経営の打ち手
事業承継を検討する際は、まず自店の状況(親族承継か、従業員承継か、第三者への譲渡か)を整理することが出発点になります。国の事業承継・M&A補助金は4枠に分かれており、自店がどの枠に該当するかを早めに確認しておくと選択肢が広がります。IT導入補助金や事業承継・引継ぎ補助金は、2026年8月29〜30日公表時点で採択率がそれぞれ9割前後・6割超と比較的高く、条件を満たせば活用しやすい制度です。
承継先を探す段階では、M&A仲介の活用のほか、従業員による事業継承(EBO)、同業チェーンへの譲渡も選択肢になります。実際に34歳の経営者がやきとんチェーンを買収した事例のように、若手世代がスピード感を持って承継先を取得する動きも出てきています。