いま何が起きているか
2026年9月時点、東京商工リサーチの調査では2026年1〜8月(20日まで)の焼肉店倒産が29件に達し、統計開始以来2番目に高い水準です。前年同期比では17%減となったものの、倒産した29件のうち28件は従業員10人未満・資本金1000万円未満の小規模店に集中しており、値上げが客離れに直結しやすい家族連れ主体の業態特性が背景にあります。帝国データバンクの調査でも2026年上半期の飲食店倒産全体は473件で過去最多、4年連続の増加です。地方都市でも高級焼肉「銀河離宮」(盛岡市)が2026年9月13日で営業を終了するなど、高価格帯であっても地方の客単価と集客の両立は容易ではありません。
農林水産省の調査では2026年7月中旬の輸入牛肉ロース小売価格が100グラム451円と2003年の調査開始以来の最高値を更新しました。円安と米国の干ばつによる牛の生産減少が重なった結果で、すき家・さわやか・焼肉きんぐなど大手でも値上げが相次いでいます。
規模とブランド力を持つ側は好調です。物語コーポレーションの2026年6月期通期決算は売上高1,516億円(前年比+22.4%)、営業利益121億円(同+31.4%)で、原価率0.6ポイント改善が増益に上乗せされています。主力の「焼肉きんぐ」は2026年9月14日の山梨県笛吹市への新規出店で全国372店舗に到達し、面的拡大が今も続いています。焼肉こじまも25店舗まで急拡大しており、コロワイドグループの「牛角焼肉食堂」もフードコート特化型で全国93店舗まで広がるなど、標準化モデルの面的拡大が業態全体で続いています。全国展開する「焼肉ホルモンたけ田」も2026年9月9日に愛知県岡崎市へ2号店を出店し、生ビール等を1杯110円という格安ドリンクとA5黒毛和牛カルビ4枚769円という高単価和牛を組み合わせる価格構成で出店攻勢をかけています。高級路線でも、叙々苑グループの「叙々苑 游玄亭」が2026年9月に名古屋市中村区名駅3丁目へ初出店し、さらにテイクアウト専門業態「叙々苑 Kitchen」が10月25日に関西初となる大阪扇町店を開業予定と、高価格帯ブランドが店舗形態を変えて客層の裾野を広げる動きも進んでいます。
ただし大手も一様ではなく、あみやき亭は原価率上昇(+0.8ポイント)で営業利益率が5.6%から5.2%へ低下、安楽亭は営業利益が18.1%減と苦戦しています。安楽亭はこうした状況を受け、これまで一部店舗のみで実施していた平日ランチ限定の食べ放題プラン(焼肉・サイドメニュー・デザート付きで2,728円)を全店舗へ拡大し、加えて2026年9月まるごと「290円クーポン感謝祭」を展開しています。一方で焼肉業態を展開するNATTY SWANKYホールディングスは2026年9月11日発表の27年1月期第2四半期決算で経常損益が1100万円の黒字に転換し、前年同期の2億6100万円の赤字から大きく改善しました。直近3カ月の売上営業損益率も-9.4%から-1.0%へ改善しており、赤字続きの企業でも原価管理やオペレーション効率化の積み重ねで黒字転換に至れることを示す事例です。ギフトホールディングスは通期営業利益予想を50億円へ上方修正しており、8月度月次動向でも既存店売上高が前年同月比2.4%増、全店売上高が26.2%増と、出店効果が業績を押し上げる構図が続いています。一方で、サイプレス運営の焼肉居酒屋「源ちゃん」は2026年8月の月次実績で既存店客数が3カ月連続の減少となり、客単価上昇で売上を一定程度相殺している状況が明らかになりました。
フードリンクニュースの分析によれば、3月決算企業を対象とした27.3期1Q決算では外食大手42社のうち12社(約4割)が営業赤字に沈んでおり、牛丼・回転寿司・焼肉といった主要カテゴリーでカテゴリートップ企業(ゼンショーなど)とそれ以外との業績格差が追撃困難なほど鮮明になっていると指摘されています。
非中核事業の切り出しも進みます。JR九州は店舗当たり売上高1.5億円ながら赤字が続いていた焼肉「ヌルボン」13店舗の全株式をMirai Nihon Venturesへ売却し、鉄道会社が飲食領域に強みを持つ事業会社へ経営を委ねる再編が起きています。
食べ放題業態では価格・品数だけでなく体験価値の競争が強まっています。青森県弘前市の「すたみな太郎」は全面改装で「すたみな太郎PREMIUM BUFFET弘前店」へリニューアルし、木目調の内装やベーカリーコーナー新設で滞在満足度を高める路線に転換しました。大阪では株式会社DICが梅田・天王寺エリアに焼肉食べ放題の新ブランド4店舗を2026年9月15日から連続開業し、既存ノウハウを横展開しつつ100品以上を2,880円〜で提供する構成にしています。両者は同じ焼肉食べ放題という土俵でも、内装・付加サービスによる差別化と、繁華街への集中出店によるシェア確保という異なるアプローチを取っています。
近隣業態のビュッフェでも高原価食材を看板化する動きがあります。クリエイト・レストランツ・ホールディングス子会社が運営する「ザ プラチナムビュッフェ 沖縄」は2026年9月16日よりステーキ食べ放題メニューを新たに導入し、既存の多彩な料理・スイーツに高原価の一品を組み込むことで満足度と客単価の両立を狙っています。
異業態からの参入も見られます。福井県のもやしラーメンで人気の「なん・なん亭」は、知り合いの焼肉店の閉業を機に、あわら市で焼肉店「なん・なん別邸」を新規オープンしました。福井発の新和牛ブランド「ふくい和牛ふくふく」や褐毛和種「越前福牛」を仕入れルートを生かして提供しつつ、豚肉・鶏肉などリーズナブルなメニューも併存させ、客層の裾野を広げています。奈良では人気焼肉店「炭火焼肉 炎家」が商業施設「M!Nara」屋上で夏季限定の「焼肉ビアガーデンスカイパラダイス」をプロデュースし、既存ブランド力を活かした夏季限定チャネルで収益機会を創出しています。
構造・原理:なぜ二極化するのか
焼肉は肉の原価比率が高く、輸入牛・豚・鶏肉の相場変動と円安の影響を直接受けやすい業態です。光熱費・人件費上昇も重なり、コストの三重苦・四重苦が常態化しています。値上げ・原価も参照してください。
分かれ目は規模の大小だけではありません。倒産が小規模店に集中する一方で、コロワイド・あみやき亭・安楽亭のように増収でも本業利益が悪化する企業と、ギフトホールディングス・物語コーポレーションのように原価改善と出店効果を両立できる企業が同じ市場に混在しています。NATTY SWANKYのように赤字幅を段階的に縮小し黒字転換に至った企業もあり、二極化は固定的なものではなく、原価管理とオペレーション改善次第で位置取りが変わりうることも示しています。外食大手42社の1Q決算で4割が営業赤字という結果は、カテゴリートップ企業だけが独走し中位以下との差が縮まらない構図を裏付けています。「源ちゃん」の客数減・客単価増という構図も、単価アップで表面上の売上を保っている企業が実は集客力の弱まりを抱えているケースの典型であり、決算数値の内訳(客数か単価か)を見極める重要性を示しています。伸和ホールディングスのように精肉卸を自前で持つ企業は、輸入相場に左右されにくい調達構造を強みにしています。
ギフトホールディングスのように既存店の伸び(2.4%増)よりも全店の伸び(26.2%増)が大きく上回る企業では、出店ペースそのものが業績の主因になっています。牛角焼肉食堂のフードコート特化業態が93店舗まで拡大しているのも同様の面的拡大戦略です。一方で叙々苑グループが名古屋の主要駅前へ初出店し、さらにテイクアウト専門の「叙々苑 Kitchen」で関西初出店を果たしたように、高価格帯ブランドが店舗形態を変えて客層を広げる動きも進んでいます。松屋・くら寿司などの上位業態化と高級鮨店の大衆業態進出に見られるように、外食全体で価格帯の棲み分けが崩れる「K字型」再編が進んでおり、焼肉業態もこの流れの中にあります。JR九州のヌルボン売却や地方の高級焼肉「銀河離宮」の閉店も、この二極化の一断面と位置づけられます。
食べ放題業態内でも二極化が起きています。すたみな太郎のように内装・付加サービスで体験価値を高める路線と、DICの新ブランドのように既存ノウハウを横展開してシェア確保を優先する路線が併存しており、どちらも「安さだけでは戦えない」という前提を共有しています。
もう一つの軸が「素材の目利き」による差別化です。老舗精肉店「日山」が銘柄や格付けだけに頼らず味わいや脂の質を重視した目利きを強みに恵比寿へ出店し、札幌の「牛乃家」は精肉卸直営の強みを生かしブランド羊肉のジンギスカンで3号店を展開しました。久留米の「赤身焼肉 百レン」が和牛赤身肉や馬刺しなど一般スーパーでは入手困難な希少食材を軸に据えているのも、健康志向と希少性を掛け合わせた同種の差別化路線です。これらは規模で戦えない個店にとって、価格競争とは別の生存路線を示しています。
経営の打ち手
- 表面利益と本業利益を分けて見る:あみやき亭のように原価率悪化を販管費効率化で相殺できない例があります。自店でも原価率と販管費率のどちらが動いているかを月次で切り分けて把握することが第一歩です。
- 客数と客単価を分けて追う:「源ちゃん」の事例のように、客単価上昇で売上を保てていても客数が連続して減少している場合は来店動機そのものが弱まっている可能性があります。NATTY SWANKYの黒字転換のように、原価管理とオペレーション改善を地道に積み重ねることで赤字幅を段階的に縮小できる例も参考になります。