いま何が起きているか
焼肉業態は「勝ち組と苦境」が同時進行しています。
2026年7月時点、東京商工リサーチの調査では2025年度の焼肉店倒産件数は57件で前年度比14.0%増、2年連続で過去最多を更新しました。さらに2026年1〜6月も26件で前年同期比8.3%増と、統計開始以来最多のペースが続いています。輸入肉・光熱費・人件費の上昇が重なり、価格転嫁の難しい小規模店が淘汰される構図が鮮明です。
一方で規模とブランド力を持つ側は好調です。物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」は370店舗に達し、2026年5月の既存店売上は前年同月比17%増。ホリイフードサービスのインバウンド特化業態「エンペラーステーキ」は新宿店で利益率5割を確立し、5店舗体制へ拡大中です。長期低迷が続いていたペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」も2026年12月期第1四半期に営業利益8900万円(前年同期は2400万円の損失)と黒字転換しました。東京・新橋にはニューヨーク発のミシュラン掲載歴を持つ焼肉店「YAKINIKU 37west NY」が上陸し、フュージョンコースとワイン・シャンパンのペアリングで記念日・接待需要を狙う高級路線を打ち出しています。近接業態のステーキ・ハンバーグチェーン、ブロンコビリーも2026年12月期第2四半期累計で営業利益57.5%増、既存店売上高107.7%と好調で通期予想と配当を大幅に上方修正しました。
多店舗展開の勢いも続いています。焼肉ホルモンざくろは2026年7月31日に愛知・東海市で21店舗目をオープン。黒毛和牛A5・A4ランクの「ざくろカルビ」を792円で提供するなど、和牛品質と日常使いの価格帯を両立させた仕入れ・オペレーション力が多店舗展開の背景にあります。また、食品スーパー「ロピア」を展開するOICグループの子会社eatopiaは、横浜市の焼肉店「ギュウトピア」を期間限定で「万福屋」に業態転換し、2026年7〜9月にうなぎ食べ放題(大人3,980円)を仕掛けています。既存の焼肉業態を丸ごと季節限定の高級食材食べ放題に切り替える機動力は、専業店にとって新たな脅威にも参考にもなり得る動きです。同じ肉焼き系業態でも、規模・モデル・再建の巧拙、そして高付加価値化や仕入れ力の巧拙によって明暗が分かれているのが現状です。
構造・原理:なぜ二極化するのか
焼肉は他業態に比べて肉の原価比率が高く、輸入牛・豚・鶏肉の価格変動や円安の影響を直接受けやすい構造を持ちます。ここに人件費・光熱費(中東情勢によるガス代・電気代上昇)が重なり、コストの三重苦になっています。
肉の品質は落とせないため、店側は周辺サービスでコストを吸収せざるを得ません。その象徴が「網交換の有料化」です。個人店を中心に100円程度の有料化が広がる一方、大手チェーンは焦げた網が風味や衛生面に影響することを重視し集客力維持のため無料対応を続けています。この一つのサービスの分岐が、コスト吸収力の差をそのまま映す指標になっています。値上げ・原価問題が、メニュー本体だけでなく接客の細部にまで及んでいる点が焼肉特有の現象です。詳しくは値上げ・原価も参照してください。
体力のある側は複数の武器を持ちます。①食べ放題という「価格納得感」の高さで客離れを防ぎつつ、デザートビュッフェ追加のようにオプション追加で単価アップを図る、②インバウンド向け高単価業態や新橋の高級フュージョン業態のように体験価値そのものを非日常化して単価を引き上げる、③黒毛和牛カルビ792円のように高品質食材を低価格で提供しつつ多店舗展開で仕入れ交渉力を高める、④食品スーパー系列の焼肉店のように季節限定で全く別の高級食材業態へ丸ごと転換する、という道です。一方、小規模・零細店は単一業態・単一立地に依存しやすく、コスト増の影響を吸収しきれずに倒産や事業譲渡に至るケースが目立ちます。海帆が傘下の焼肉チェーン「新時代」16店舗を社保滞納の末に売却した事例は、資金繰り悪化が表面化した典型例です。出店・閉店・M&Aの動きとしても注目されます。
経営の打ち手
打ち手は大きく6方向に整理できます。
- 看板食材の物販・持ち帰り化:帯広市の「JUICY DISH 焼肉南大門」がブランド牛「十勝和牛」を塩でも楽しめるよう特製ブレンド塩を一般発売した事例のように、来店に依存しない収益源を作る動きが広がっています。商品開発の視点で自店の看板メニューを転用できないか検討する価値があります。