いま何が起きているか
帝国データバンクの調査によると、2026年上半期の飲食店倒産は473件で上半期として過去最多を更新しました。負債総額は約245億9200万円と前年比36.6%増加し、業態別では居酒屋を含む「酒場・ビヤホール」が125件と過去最多を記録しています。原価上昇に見合った値上げが顧客の「割高感」につながり、客離れの一因になっているとみられます。
日本フードサービス協会の調査では、2026年6月の外食産業売上高は前年同月比3.3%増となった一方、客数は0.8%増にとどまりました。台風の接近と土日の少ない曜日回りが重なり、居酒屋を含む飲酒業態は客足の伸び悩みが目立ちます。客単価の上昇(2.4%増)が客数の弱さを補う構図が続いており、ファストフードが5.1%増と堅調だったのとは対照的です。
一方で、外食大手の決算は総じて増益基調が続いています。日高屋を展開するハイデイ日高は2026年3〜5月期に純利益が前年同期比13.4%増となり、3年連続で最高益を更新しました。ステーキ大手のブロンコビリーも2度の値上げと原価改善で26年12月期の純利益予想を32%増へ上方修正し、既存店売上高は前年比107.7%と値上げ後も客数を落としていません。「磯丸水産」「かごの屋」など220を超えるブランドを抱えるクリエイト・レストランツ・ホールディングスもコスト構造の見直しで利益が過去最高を更新しています。
ただし大手の中でも明暗は分かれています。2026年6月の月次では「串カツ田中」や「鳥貴族」の既存店売上がマイナスに転じましたが、鳥貴族はこの流れを受けて8月1日から2ヶ月ごとに期間限定メニューを投入する新たな年間企画『もう一歩先への挑戦〜産地にこだわったメニューをお客様にお届けしたい〜』を開始します。第1弾は鹿児島・宮崎県産ムネすじ肉を使った数量限定30万食の商品や長野県産食材を使ったメニューで、国産化10年の実績を土台に産地訴求を体系化した長期企画です。ダイヤモンドダイニングの鶏専門店「鳥福」「九州黒太鼓」も国産ブランド鶏と地域食材を組み合わせた期間限定メニューを投入するなど、専門業態でも話題づくりが活発です。
財務が厳しいチェーンの再編も目立ちます。マルシェ(八剣伝など)はテンポスホールディングスからの増資10億円の半分を借入返済に充て、6月の既存店売上は前年比10%減という誤算に直面しました。海帆は社会保険料の滞納が表面化し、傘下の焼肉チェーン「新時代」16店舗を売却しています。個店・地方店の事業承継も進んでおり、香川県高松市では創裕が、トフラップが運営してきた居酒屋「御馳の介」「虎徹」の運営事業を2026年7月28日付で譲り受ける契約を締結しました。20年以上地域に根差した店舗の運営権が他社へ移る例で、後継者不在や経営環境の変化を背景にした地方飲食店再編の一例です。
異業種からの参入も進んでおり、業務スーパーを展開する神戸物産は新業態「韓国酒場 ハンサン」を8月6日に神戸市でオープン予定で、食品工場や物流網を活かした原価の強さを武器に将来のFC展開も視野に入れています。業態分散という点では、エー・ピーカンパニー傘下の塚田農場プラスが手がける弁当事業「おべんとラボ」の成長も注目されます。居酒屋業態がコロナ禍で苦戦した時期にも右肩上がりで伸びており、居酒屋グループが中食に展開してリスクを分散した成功例と言えます。
構造・原理――なぜ二極化が進むのか
居酒屋という業態は、原価高・人件費高という同じ外部環境に晒されながらも、価格交渉力とブランド力の差で受け止め方が大きく異なります。チェーンは仕入れ規模やアプリ会員基盤、SNS発信力を使って「値上げせずに稼ぐ」施策を打てますが、体力の乏しい小・零細店は同じ値上げでも「割高感」として直接顧客に伝わりやすく、これが倒産増の一因になっています。値上げ・原価の記事でも同様の構図が指摘されています。
もう一つの構造変化は、総合居酒屋という業態そのものの飽和です。串カツ田中・鳥貴族といった大型チェーンの既存店売上が鈍る中、鳥貴族が年間を通じた産地訴求の企画で客数の底上げを図る動きは、単発の新商品ではなく「継続的な話題設計」で客離れに対抗する試みです。専門特化した鶏専門店や韓国酒場が伸びる傾向とあわせ、総合型からの脱却という流れが加速しています。新業態・トレンドも参照してください。
天候要因も無視できません。台風や曜日回りといった経営者側で制御できない要素が客数を左右する構図は、客単価の底上げでしか吸収できない部分があり、天候リスクへの耐性を業態設計に組み込む必要性を示しています。
資本力の差は、危機に直面した店の選択肢の幅も決めます。マルシェのように増資を受けても即座に業績改善に結びつかない例、海帆のように非中核事業を売却して資金を確保する「守りの再編」の例、高松の事業譲渡のように運営権そのものを他社に委ねる「事業承継型」の再編も並びました。一方で塚田農場グループのように、居酒屋本業に加えて弁当・中食事業を早期に育てておいたことが業績の下支えになったケースもあります。中食のような周辺領域への展開も、資本力に応じた選択肢の一つです。
人材面では、外食業の特定技能1号が2026年4月13日から新規受け入れを一時停止しており、停止期間は長期化の見通しです。「新規獲得型」から「既存人材の活用型」への発想転換が急務です。人手・賃金も併せて確認してください。
経営の打ち手
値付けと伝え方の見直し
単純な値上げではなく、メニュー内容や提供価値の見直しとセットで説明することが重要です。ブロンコビリーが値上げ後も既存店売上高を伸ばしている点は、体験価値の刷新とセットで打ち出すことの効果を示しています。