いま何が起きているか
東京商工リサーチによる2026年7月の飲食業倒産は112件(前年同月比6.6%増)で、7月として過去最多。1〜7月累計621件は前年の年間1,002件を上回るペースです。「物価高」「人手不足」「人件費高騰」を理由とする倒産が同時に急増し、居酒屋を含む日常業態が目立っています。帝国データバンク調べでも2026年上半期の「酒場・ビヤホール」倒産は125件で過去最多でした。
日本フードサービス協会の2026年6月データでは外食売上高が前年比3.3%増(55カ月連続増収)でも伸び率は鈍化し、客数は0.8%増にとどまり、居酒屋は前年を0.9%下回る減収業態でした。客単価上昇に依存した「見せかけの増収」の裏で客数が伸び悩む構図が続いています。NATTY SWANKYの2026年8月既存店データでも、売上高は前年比3.1%増と9カ月連続プラスながら、客数は3.7%減、客単価は7.0%増と、単価上昇が客数減を吸収する同じ構図が確認できます。サイプレス運営の焼肉居酒屋「源ちゃん」も2026年8月時点で既存店客数が3カ月連続マイナスとなり、客単価上昇で売上を一定程度カバーする同型の構図が続いています。居酒屋大手チムニーも2026年8月の直営既存店売上高が前年比3.9%減となり、2カ月ぶりに前年を下回りました。客数2.4%減・客単価も減少と、これまでの単価上昇によるカバーすら効かず両面で後退した点が特徴です。
一方で串カツ田中は2026年8月、豪雨など悪天候が続く中でも既存店客数が増加しました。同時期にガーデンの既存店売上高は豪雨の影響で前年割れに転じており、同じ天候要因でも企画力・話題性の有無でブランドごとに明暗が分かれています。
決算では増収・増益の見出しの裏で内実が分かれます。大庄は増収でも営業利益-16.7%、コロワイドは最終益78.2%増でも売上営業利益率は3.5%から3.0%へ悪化、ワタミは増益の主因が増収効果でした。対照的にホリイフードサービスは営業利益率4.4%→11.3%の効率化主導増益、ユニシアホールディングス(旧串カツ田中HD)は売上+73.4%でも営業利益率6.6%→4.6%と規模拡大が利益率悪化を吸収する形です。天狗のテンアライドは売上縮小下でも人件費水準を維持し赤字が継続しています。
均一価格業態も原価・人件費上昇の圧力から逃れられません。焼き鳥チェーン「鳥貴族」は2026年10月1日から全品を税込390円から410円へ20円値上げすると発表し、2022年4月以降5年連続の値上げとなります。国産鶏肉などの原材料費高騰や人件費・エネルギーコストの上昇が理由で、均一価格の分かりやすさを維持しつつ段階的に価格転嫁する動きが定着しつつあります。
出店・業態転換・M&A・事業承継の動きも活発です。ユニシアHDはロードサイド店を「ザクッと とんかつ カツのジョー」へ転換する一方、主力ブランド「串カツ田中」は1号店開業から約20年を経て20年ぶりの大幅リブランディングに踏み切りました。新タグライン「今日も、田中で。」を掲げ、ロゴ・内外装を刷新、ドリンク価格も値下げしてPR大使にももいろクローバーZの佐々木彩夏さんを起用し、次の20年を見据えた長期戦略と位置づけています。エー・ピーホールディングスは初のライセンス方式導入で「じとっこ組合 浜松モール街店」を「炭火焼鳥 塚田農場」へリブランドします。外食企業FS.shakeは買収した高級路線の「串亭」恵比寿本店を、より入りやすいカジュアルな串揚げ居酒屋業態へリニューアルしています。
事業承継の動きも目立ちます。東京・錦糸町で50年続く老舗ろばた焼「海賊」が、鮮魚居酒屋を20店舗展開する企業に承継されました。個人経営の老舗が同業の多店舗展開企業に引き継がれる構図は、後継者不在や設備投資負担を背景に今後も増えると見られます。
地域密着型の多業態展開も注目されます。赤羽の佐野商店(2018年創業)は「炭火晩酌屋はればれ」「藁と餡 COHARU」に続く3店舗目として、2026年5月に立ち飲み業態「スタンド ミハラシマート」を出店。開業3か月で坪月商47万円を記録するなど、既存店の看板メニューや接客力を新業態に転用しながら地域内で客層を分散させるモデルが機能しています。大阪の株式会社J.E.Fが展開する焼鳥専門店「焼鳥しふく」も、飲食未経験の経営者による2022年12月の3店舗目開業を転機に、月商1500万円超を複数店舗で記録する急成長を見せており、他業態からの参入者が焼鳥・居酒屋領域で成果を出す例として注目されています。地方都市でも新業態は生まれ続けており、松山市の飲み屋街には1人前単位から注文できる韓国酒場「キムポチャ」が新規オープンするなど、少人数・一人客対応の工夫は全国的な広がりを見せています。
構造・原理
居酒屋は原価高・人件費高・不動産高という同じ外部環境に晒されながら、価格交渉力とブランド力の差で受け止め方が大きく異なります。小・零細ほどコストショックを吸収する体力が乏しく、倒産・事業承継が増えやすい局面です。
決算の中身も一様ではありません。増益の主因が増収効果か利益率効果かを分けないと、増収なのに減益、増収でも利益率悪化といった表面と実態のズレに気づけません。串カツ田中とガーデンのように、同じ悪天候下でも既存店客数が増える店と落ち込む店に分かれる事実は、天候という外部要因だけでなく企画力・話題性の差が結果を左右することを示しています。源ちゃんやNATTY SWANKYのように客単価で客数減をカバーする構図が続く場合、単価だけに依存すると来店動機そのものの弱まりを見逃すリスクがあります。チムニーのように客数・客単価がともに減少に転じるケースは、単価上昇による下支えすら効かなくなる局面があることを示しており、単月の数字だけで判断せず複数月のトレンドで見極める必要があります。テンアライドのように人件費が固定費化する構造も、人手に頼る接客・調理を前提とする居酒屋業態が避けにくいリスクです。人手・賃金の課題と直結します。
均一価格業態にとっても原価・人件費上昇は避けがたく、鳥貴族の5年連続値上げは「わかりやすさ」を維持したまま段階的に価格転嫁するモデルが業界標準になりつつあることを示しています。値上げ・原価も参照してください。
総合居酒屋の飽和も続きます。ユニシアHDのとんかつ転換と串カツ田中の20年ぶりリブランディング、エー・ピーHDのライセンス方式導入、FS.shakeによる串亭のカジュアル化は、いずれも既存資産をゼロから作り直すより早く再活用するという同じ発想に立っています。不振店をそのまま閉じるのではなく、グループ内の強いブランドへ転換する道と、ライセンス・FCで外部の運営力を借りる道、買収ブランドを価格帯ごと組み替える道、そして海賊の事例のように同業の多店舗展開企業へ承継する道は、いずれも「単独では維持しにくい看板をどう存続させるか」という同じ課題への異なる解と言えます。一方で佐野商店や焼鳥しふく、松山の韓国酒場のように、一つの企業・一つの街の中で複数業態や新しい提供形式を育て上げ、坪月商や月商の高さで実力を示す成長経路も並行して存在します。出店・閉店・M&Aも参照してください。
加えて2026年4月から外食業の特定技能1号新規認定が一時停止され、海外人材の新規受け入れルートが実質閉じています。既存従業員の定着策やバックオフィス業務のデジタル化など、現場負荷の軽減そのものを経営課題の中心に据える動きが広がっています。
経営の打ち手
増収と利益率、客数と客単価を分けて確認する
増益の主因が増収効果か利益率効果か、売上増加が客単価上昇によるものか客数増加によるものかを月次で分解することで、天候や企画の効果を切り分けて把握できます。チムニーのように客数・客単価が同時に落ちる月が出た場合、外部要因(天候・曜日配置)か自店施策の影響かを分けて分析する視点が有効です。