いま何が起きているか
東京商工リサーチによると、居酒屋の倒産件数は過去最多ペースで推移しており、2026年は初めて年間200件を超える可能性が出てきました。物価高による原価上昇と若者を中心とした酒離れが同時に進み、価格競争で体力を失った店舗から淘汰が進む構図です。
原価面では2026年10月時点で葉物野菜の高騰が深刻化しています。キャベツや白菜が298〜398円の高値を付け、鍋需要が高まる時期にもかかわらず大手外食チェーンがメニュー変更に動き、カット野菜まで値上げが波及する事態です。天候要因による原価変動リスクが改めて顕在化しています。
日本フードサービス協会の2026年6月データでは外食売上高が前年比3.3%増でも居酒屋は前年を0.9%下回る減収業態でした。増収でも利益が伴わない決算が相次いで表面化しています。きちりHDは増収+11.1%でも純利益-28.2%、SANKO MARKETING FOODSは増収でも営業利益が赤字継続、大庄も卸売事業拡大の裏で26年度営業利益が2割減となりました。クリエイト・レストランツHD中間決算も増収+3.5%ながら営業利益は悪天候とM&A関連費用で16.6%減です。一方、英国風パブ「HUB」の中間決算は営業利益65%増と好調で、公式パブリックビューイングなどスポーツ観戦イベントの集客効果が業績を押し上げました。業態やブランドによって明暗が分かれている点が特徴です。
価格戦略の分岐も続きます。ダンダダンを展開する企業は既存店客数が2カ月連続で前年割れとなり、値上げによる客単価上昇の副作用が顕在化しつつあります。一方で焼鳥チェーン「エターナル」は410円への値上げ後も既存店売上1.6%増で踏みとどまっており、同じ値上げ戦略でもブランド力・顧客基盤の差で明暗が分かれています。串カツ田中は2026年10月に和歌山出店で47都道府県制覇を達成し、かつて全国展開した養老乃瀧・村さ来・つぼ八の「昭和の居酒屋御三家」と比較される存在になりました。あわせて秋冬新メニュー全29種類(麻辣ちりとり鍋など)と1杯100円の「無限ハイボール」を投入し、食事とドリンクの両面から集客を強化しています。鳥貴族はアパホテルの「アパ社長カレー」とコラボし、手羽先カレーなど2品を数量限定(計20万食)で発売するなど、異業種コラボで話題作りを継続しています。
多業態化・業態転換も加速しています。世界の山ちゃん運営企業は上位業態「山」の8店舗目を出店し、非上場ながら年商100億円超のチェーンとして存在感を示しています。コロワイド傘下は浦和の居酒屋を「しゃぶしゃぶ温野菜」へ転換し、同業態は秋の新作「豆乳ポルチーニ鍋」をテイクアウト・デリバリー向けに期間限定で商品化するなど、店内メニューの家庭内消費への転用も進めています。回転寿司「まん福」を展開するジャックポットは、牡蠣とポークリブを軍手で手づかみ提供する新業態「軍手ヤード」を立ち上げ、体験型飲食の開拓にも動いています。五反田の青魚居酒屋「あおもん」は繁盛店の受け皿として同ビルに「酒肴あおもん穣」を出店し、時間制回転の既存店とゆっくり楽しむ新店ですみ分ける多店舗戦略を取っています。サイプレスHDは2026年11月開業の「イオンモール伊達」に寿司・定食・とんかつ・天丼専門店(新業態)・惣菜の5ブランドを同時出店する計画です。
SOEL株式会社の調査では、居酒屋選びの最後の決め手は「人づて」が34.0%で最多となり、写真や口コミを上回りました。ただし約6割はグルメサイト経由で予約しており、動機形成は人づて、受け皿はグルメサイトという二段構造が明らかになっています。出店面では、人口1万人あたりの居酒屋等事業所数が沖縄県で最多、最少の奈良県の3.2倍という地域差も示され、商圏分析の材料として参考になります。
構造・原理
居酒屋は原価高・人件費高・不動産高という同じ外部環境に晒されながら、価格交渉力とブランド力の差で受け止め方が大きく異なります。葉物野菜の高騰のように天候起因の原価変動は繰り返し発生する構造的リスクであり、メニュー設計の柔軟性がそのまま収益の耐性に直結します。増益の主因が増収効果か利益率効果か、営業利益と経常利益・純利益のどちらで動いているかを分けないと、表面と実態のズレに気づけません。大庄のように本業を補うはずの新規事業(卸売)が薄利多売構造で全体の利益率を押し下げるケースもあり、事業ごとの採算基準を分けて見る視点が欠かせません。人手・賃金の課題とも直結します。
価格戦略は三極化しています。値上げを維持し客数の落ち込みを最小限に抑えられるかはブランド力次第で、エターナルとダンダダンの明暗がその差を示しています。串カツ田中のように単価を下げて来店頻度を稼ぐ道、HUBのようにイベント連動で集客自体を底上げする道もあります。値上げ・原価も参照してください。
集客面では、最終的な来店動機は「人づて」でも、実際の予約行動の多くがグルメサイト経由という二段構造が示されています。SNSや写真映えの発信だけに頼らず、紹介されやすい情報設計と予約導線の両方を整える視点が重要です。集客・販促も参照してください。
大手外食グループが不振業態を閉めて別業態へ素早く転換する動きや、既存のライセンス店舗を別ブランドへ切り替える動き、単一業態依存から脱する多業態化は、既存資産(立地・設備・ノウハウ)を低コストで横展開する発想です。繁盛店の受け皿として近接立地に別業態を出す動きや、新業態をまず1号店として小さく試す動きも同じ発想の延長にあります。出店・閉店・M&A・業態転換・多業態化(M&A型成長)も参照してください。
経営の打ち手
増収と利益率、営業利益と経常・純利益、客数と単価を分けて確認する
増益の主因が増収効果か利益率効果かを月次・四半期で分解することで、値上げや新規事業に頼れなくなる局面を早期に察知できます。本業と新規事業(卸売・新業態など)の採算基準を分けて管理することも有効です。













