いま何が起きているか
2026年9月時点で外食大手の月次実績・決算・脱炭素対応・法令順守にまつわる動きが相次いで発表され、明暗がさらに鮮明になっています。
定食業態は継続して好調です。大戸屋は8月度既存店売上高が前年同月比10.8〜11%増(客数6.0%増・客単価4.5%増)で58カ月連続の前年超えとなり、株価が3日ぶりに反発しました。ラーメン大手の幸楽苑も8月度既存店売上6.7%増・客数5.0%増と、値上げだけでなく客数の回復を伴う増収基調が続いています。同じくラーメン業態の丸千代山岡家も8月度既存店売上高・客数がともに前年比9.1%増となり、単価上昇ではなく客数増そのものが業績を押し上げる形で好調を維持しています。
一方、居酒屋大手チムニーは8月度既存店売上高が前年比3.9%減となり2カ月ぶりに前年割れ、客数2.4%減・客単価も減少と両面で後退しました。ステーキ・ハンバーグチェーン「あさくま」を運営する大衆食堂・レストラン業態の株式会社あさくまは27年1月期第1四半期売上高が前年比25%増と好調ですが、26年7月期決算では利益は減益となっており、増収でも利益率が伴わない典型的な構図が見られます。厨房機器販売のテンポスホールディングスも同時期の決算で飲食事業の利益が前期比9割減となり、外食業界全体を覆う物価高・天候不順による収益環境の厳しさを裏づけました。
ファストフード最大手の日本マクドナルドHDも8月度既存店売上高3.5%増(客数1.3%増・客単価2.2%増)と客数・客単価とも前年を上回りましたが、売上高の伸び率は7月の5.1%増から縮小しており、客単価上昇に支えられた側面もうかがえます。焼肉居酒屋「源ちゃん」を運営するサイプレスでは、2026年8月の月次で既存店客数が3カ月連続でマイナスとなりました。客単価は上昇しており売上への影響を一定程度相殺していますが、客数減の長期化は集客力そのものの弱まりを示すシグナルとして注視されます。
牛丼業界では、すき家・吉野家との3強競争を続ける松屋が「牛丼以外」の分野で新戦略を打ち出す動きが報じられており、単品業態の限界と多角化の必要性があらためて注目されています。
トリドールHDは1Qで売上収益+3.5%と過去最高を更新しながら営業利益は-34.3%でした。店長年収を最大2,000万円まで引き上げる高待遇施策の一方で、公正取引委員会から中小受託取引適正化法・下請法違反として勧告を受けています。食材加工を委託する下請け事業者37社に対し、2024年8月から2026年7月にかけて「システム利用料」名目で一律1.1%の代金を一方的に減額しており、減額総額は1億4,741万1,330円に上ります。公取委は減額分の支払いに加え、2026年1月以降の減額分については年14.6%の遅延利息の支払いも求めています。
くら寿司は2026年10月期第3四半期決算を開示し、売上高189,684百万円(前年同期比+4.4%)と増収を確保した一方、営業利益は2,845百万円(同-45.2%)、経常利益3,469百万円(同-37.7%)、純利益2,030百万円(同-41.3%)と利益系の指標が軒並み大きく落ち込みました。回転すし大手3社では、値上げしても客数を増やすF&LC、90円戦略で客数を確保するかっぱ寿司、増収減益に沈むくら寿司という構図が続いています。
そのF&LCが運営するすしチェーン「スシロー」は、米国初出店をニューヨーク・タイムズスクエア近くに10月開業すると正式発表しました。マグロなど定番一皿2貫が5ドル(約800円)、大トロは10ドル(約1,600円)と、国内最低価格帯の約7倍にあたる水準です。外食大手42社の2027年3月期1Q決算分析では、12社(約4割)が営業損失を計上しました。牛丼・回転すし・焼肉といった主要カテゴリーでは、ゼンショーHDのようなカテゴリートップ企業と、それ以外との業績格差が追撃困難なレベルまで広がっています。ゼンショーHDは同1Q決算で純利益が前年同期比89.2%増となり、従来の主力「すき家」ではなく「はま寿司」が売上・利益の両面で首位となりました。
焼肉業態を展開するNATTY SWANKY HDの27年1月期中間期決算では、売上高3,916百万円(前年同期比+6.2%)に対し、営業利益は15百万円(同+105.7%)と黒字転換しました。ただし親会社株主に帰属する中間純利益は依然-32百万円の赤字で、関係会社株式の評価損に伴う特別損失の計上も別途開示されています。
ガバナンス面では、きちりホールディングスの子会社で個人情報漏えいが発生し、同社は適時開示で謝罪しました。くら寿司の「ちいかわ」コラボは従業員による景品の横領・転売が原因で全面中止に追い込まれ、公式説明との運用ギャップが現役従業員の証言で浮き彫りになりました。
環境対応の動きも見られます。すかいらーくHDは北海道電力・HAREとオフサイトPPA契約を結び、太陽光発電所を稼働開始しました。系統を経由して再エネ電力を店舗に供給する仕組みで、大手チェーンによる脱炭素対応の一例です。食べ放題業態では、江戸一が「すたみな太郎弘前店」を全面改装し、木目調内装やベーカリーコーナー新設で客単価と満足度の両立を狙う動きも見られました。
構造・原理:増収効果と利益率変化効果を分けて見る
決算の見出し数字を読み違えないために有効なのは、増減益を「増収効果」と「利益率変化効果」に分解することです。くら寿司の第3四半期決算では、営業利益の増減額-2,344百万円のうち、増収による押し上げ効果は+229百万円にとどまり、利益率変化効果が-2,573百万円と圧倒的に主因でした。内訳を見ると、売上原価率は41%(前年同期比+0.2ポイント)とほぼ横ばいで、販管費率が57.5%(同+1.1ポイント)と上昇しており、人件費・地代家賃・広告費を含む販管費の重さが原価以上に利益を圧迫しています。通期計画に対する進捗率も売上高73.8%に対し営業利益56.9%と乖離しており、会社自身が営業利益の減益(前期比-8.4%)を織り込んだ計画を出している点も、今期の利益率低下が一時的な要因だけではないことを示唆します。
対照的にNATTY SWANKYの中間決算は同じ「増収効果」と「利益率変化効果」の分解で逆方向の結果を示しました。営業利益の増減273百万円のうち、売上増による効果は-16百万円とむしろマイナスで、利益率の変化による効果が+289百万円と黒字転換の主因でした。つまり増収そのものは利益を押し下げる方向に働いており、規模拡大ではなく収益構造そのものの改善が黒字化を実現しています。一方で親会社株主帰属の中間純利益は赤字が続いており、営業段階の改善と最終損益の間には関係会社株式評価損という会計要因が働いている可能性がうかがえます。営業活動によるキャッシュ・フローは前年同期の-51百万円から-24百万円へとマイナス幅がほぼ半減しており、損益計算書上の純利益が赤字でも資金繰りの悪化ペースが鈍化している点は立て直しの初期段階として押さえておきたい兆候です。
ホットランドの中間決算でも、営業利益減少162百万円のうち増収効果はプラス87百万円にとどまり、利益率変化効果がマイナス249百万円と主因でした。トリドールや安楽亭、あさくまの増収減益も同様に、人件費・原材料費という利益率変化効果が増収効果を上回った典型例です。
外食大手42社のうち4割が営業赤字という結果は、カテゴリー内での格差がもはや「率」の差ではなく追撃困難な構造差になっていることを示します。ゼンショーHDの好決算はその象徴で、単一業態への依存を避け複数業態を抱えるポートフォリオ経営の強さを裏づけています。同じ月次実績でも、丸千代山岡家のように客数増そのものが好調の主因である業態と、チムニーのように客数・客単価とも減少に転じた業態が同時に存在する点は重要です。居酒屋業態の失速とラーメン・定食業態の好調が同時進行していることは、業態選択そのものが収益体質を左右し始めている可能性を示唆します。
トリドールの下請法違反は、システム利用料という新しい形のコスト転嫁が問題視された事例です。取引効率化のために導入したシステムであっても、費用負担の設計次第では法令違反に該当し得ることを示しており、大手だからこそ取引先との力関係が問題化しやすい構造的リスクがあります。くら寿司のコラボ景品横領問題も、本部が定めたルールと現場運用の乖離という同種の教訓を示しており、大手チェーンほど本部の目が現場運用の細部まで届きにくい構造的な弱点があらためて浮き彫りになりました。
経営の打ち手
- 自店の増減益を「増収効果」と「利益率変化効果」に分けて月次で確認する。売れなかったのか、売れても儲からなくなったのかを切り分ける
- 原価率と販管費率を分けて前年同期比較し、どちらが利益を圧迫しているかを特定する。くら寿司の事例のように、原価が横ばいでも販管費率上昇だけで大幅減益になり得る