いま何が起きているか
2026年10月26日時点で、飲食店の人手・賃金を巡る状況は複数の圧力が重なっています。
東京商工リサーチの調査によると、2026年4〜9月の人手不足関連倒産は前年同期比17.0%増の240件で、2013年度の調査開始以来最多となりました。理由別では「人件費高騰」が130件(前年同期比75.6%増)で最多となり5年連続の増加です。資本金1000万円未満の中小企業が66.2%を占め、サービス業(飲食業を含む)が91件と突出しています。帝国データバンクによる2026年1〜6月の外食業倒産件数も473件で過去最多を更新しており、人手不足と人件費高騰が個店の経営体力を上回りつつある構図が複数の統計から裏付けられています。
2026年度の最低賃金は9月3日、全47都道府県で確定し、全国加重平均1177円(前年から56円増)となりました。鹿児島県では10月25日から現行1026円が64円引き上げられ1090円となり、昨年の73円増に次ぐ過去2番目の上げ幅となっています。地方都市でも引き上げ幅が高止まりしている実態がうかがえます。帝国データバンクが10月19日に公表した調査(全国2万2,095社対象)では、企業が採用時に提示する最低時給は平均1,255円で前年から50円上昇。最低賃金との差は78円となり、前年の84円から6円縮小し2年連続の縮小となりました。採用の実勢時給がすでに最低賃金の引き上げを先取りしている一方、同調査では引き上げペースを「速すぎる」とする回答が42.3%で最多を占め、経営体力とのギャップは埋まっていません。全国労働組合総連合は2027年春闘方針で最低賃金1800円以上を要求しており、賃上げ圧力は今後も続く見通しです。厚労省発表の2026年春闘結果は平均1万8167円・賃上げ率5.18%と3年連続5%超でしたが、食料品の相次ぐ値上げで実質的な生活実感は改善していないとされ、政府は骨太方針2026で2029年度までの実質賃金年1%上昇定着を掲げています。
求人飲食店ドットコムの調査(2026年度上期、求人案件58,381件)では、飲食店の平均募集給与は東京31.1万円、大阪30.0万円、福岡28.8万円、愛知28.7万円と4地域すべてが前年比5千円以上上昇。福岡は約1.4万円上昇し約4年半ぶりに愛知を逆転しました。地方都市でも給与競争が激化していることを示すデータです。
政府は最低賃金について、2030年代前半までに全国平均1500円を目指す新方針を示しました。石破政権時代の「2020年代に1500円」目標からは後ろ倒しとなった形です。あわせて、引き上げ時期が都道府県ごとにばらつき始めている点も新たな課題です。例年通り10月に引き上げる地域と年をまたぐ地域が混在し、群馬県は2026年3月と全国で2番目に遅い改定時期となっています。
外国人材を巡っては、2026年4月の特定技能1号新規受け入れ停止(在留者数上限約5万人到達)から半年が経過し、既存人材の争奪戦が激化しています。マイナビグローバルの調査によれば、7月に内定した外食業の特定技能外国人のうち地方から6都府県(東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・愛知)へ転職した割合は46.4%に達し、3月の31.9%から大幅上昇しました。大学生数の減少というアルバイト確保面の構造要因も重なり、都心では「客席はあるのにスタッフがいないため客を取れない」という声も出ています。
こうした中、政府は病院・福祉施設・学校給食の業務を「外食業分野」から「飲食料品製造業分野」(上限13万3500人、7月末時点で76%充足)に切り分け、来年4月から外国人材の受け入れを再開する方針を示しました。接客が少なく調理中心という給食業務の特性を踏まえた制度上の「抜け道」的対応であり、12月の閣議決定を目指しています。外食業分野そのものの受け入れ逼迫は解消されておらず、一般の飲食店にとっては上限緩和を待つか国内人材確保・省人化投資で凌ぐかの選択が続きます。
さらに2025年10月、在留資格「経営・管理」の許可基準が改正され、資本金等の要件が500万円以上から3000万円以上へ引き上げられました。全国に約4000〜5000店あるとされるインド・ネパール料理店の多くはネパール人経営者が支えてきましたが、この要件引き上げに特定技能1号の新規受け入れ制限が重なり、経営継続の資金要件と人手確保の両面で同時に圧力を受けています。
時給を上げただけでは解決しないことを示す調査も重なっています。エデンレッドジャパンの調査では、時給を引き上げた企業の82.6%が「時給だけでは採用・定着に限界がある」と回答。同じ時給条件なら福利厚生の有無で勤務先を選ぶというパート層は88.7%に上ります。人手不足の負荷が現場の一人に集中しやすい構造も表面化しており、かっぱ寿司元店長の自死(2015年)を巡り、2026年9月18日に遺族が運営会社の安全配慮義務違反を訴え神戸地裁に提訴しました。一方で、愛媛県の有限会社マキフーズでは飲食部長が自作したAI活用の業務改善により月130時間の作業削減を実現し、地方大会で最優秀賞を受賞するなど、現場発のデジタル活用で負荷を軽減する動きも出てきています。
構造・原理
人手不足関連倒産の過去最多更新は、人件費高騰と物価高が同時に資金繰りを圧迫する「二重苦」が起きていることを示しています。賃上げ自体は正しい対応でも、原資を価格転嫁や生産性向上で確保できなければ利益率悪化が先に効いてしまい、特に資本金1000万円未満の小規模事業者ほど影響を受けやすい構図が統計上も裏付けられています。
採用時の実勢時給が最低賃金に近づき、その差が2年連続で縮小している事実は、企業がすでに最低賃金の先取りを迫られていることを意味します。鹿児島のように地方でも2年連続で大幅な引き上げ幅が続く一方、引き上げペースを「速すぎる」とする声が最多である以上、原資確保が追いついていない経営体の存在が示唆されます。東京・大阪だけでなく福岡が愛知を逆転するなど、地方都市でも募集給与の競争が激化している点は、人手不足による賃金上昇圧力がもはや都市部だけの現象ではないことを示します。労組が1800円という高水準の最低賃金を要求していることも踏まえると、名目賃上げが進んでも物価高が実質的な改善を相殺する構図は当面続くとみられます。
特定技能1号の新規受け入れ停止は、新規流入の蛇口を閉じたまま既存人材の奪い合いだけを激化させる構造を生んでいます。都市部は賃金水準とキャリアアップ機会で優位に立ちやすく、地方店舗ほど「育てた人材が流出するリスク」に直面しやすい状況です。給食業務を「飲食料品製造業分野」に切り出して受け入れを再開する案は、外食業分野全体の枠は変えないまま特定の業務だけを別枠扱いにする運用であり、制度の硬直性を回避する一時的な工夫といえます。外食業分野そのものの逼迫は未解消のままであり、一般の飲食店には直接恩恵が及ばない点に注意が必要です。これに加えて、在留資格「経営・管理」の資本金要件引き上げは、外国人経営者自身の事業継続を揺るがす制度変更であり、店舗側の人手確保と経営継続という二重の課題が同時に重なっている点は見逃せません。これらは個店の努力だけでは解消しきれない制度的な偏在であり、特定技能制度の枠組みを理解した上での対応が必要になります。
エデンレッドジャパンの調査結果は、時給上昇と定着効果が単純な相関でないことを示します。同じ時給条件なら福利厚生の有無で勤務先を選ぶパート層が88.7%に達している以上、時給一本の訴求はすでに差別化の手段として力を失いつつあります。かっぱ寿司の訴訟は、人手不足のしわ寄せが店長職という「一人」に集中しやすい構造を示しています。一方でマキフーズの事例は、現場担当者がAIを使って業務改善を自走させることで、人員を増やさずに負荷を下げる道があることも示しています。
経営の打ち手
人件費上昇と人材不足への対応は単一策では吸収しきれません。雇用形態の組み合わせ、価格戦略、キャリアパスの提示、制度変化への備えという複数の打ち手を同時並行で進める発想が欠かせません。
- 採用時給が最低賃金に収斂しつつある現状を踏まえ、求人時の時給設定を定期的に市場相場と照合し、改定のたびに後追いにならないよう準備する


















