いま何が起きているか
2026年7月時点、飲食業界では「出店」と「閉店・売却」が同時に加速しています。大手・チェーンは商業施設やフードホールに加え、駅高架下・都市公園・空港ターミナルという新たな公共・複合施設への出店を積極化させる一方、小・零細店は原価高と割高感の板挟みで倒産・閉店が過去最多ペースです。加えて、個人色の強い人気店が事業譲渡でオーナー交代する動き、上場企業が非中核子会社を切り離す動きなど、資本市場・業界構造側の理由による再編も続いています。
- 名古屋鉄道が「豊田市駅」高架下商業施設を8月26日に全面開業するなど、鉄道会社主導の駅前・高架下開発が飲食テナントの新たな受け皿になっている。
- 博多駅前の都市公園「明治公園」にPark-PFI制度で人気ベーカリーがプロデュース出店するなど、公共空間への出店機会も広がっている。
- 京都勝牛が京都駅直結施設に、あさくまが中部国際空港セントレアに初出店するなど、駅・空港という乗換・待ち時間需要を取り込む立地戦略が目立つ。
- 大戸屋やざくろ焼肉チェーンが郊外幹線道路沿いに新店を出すなど、大手・準大手は地方都市でのエリア出店も継続している。
- 中目黒で14年営業した創作中華店が富山の港町へ移転するなど、都心の専門店が地方へ拠点を移すケースも見られる。
- 香川県高松市の人気居酒屋2店が事業譲渡でオーナー交代するなど、個人色の強い店の運営権が他社へ移る再編も続いている。
- 居酒屋業態は上半期の倒産件数が過去最多を記録し、小規模店ほど「割高感」が客離れの要因になっている。
- 上場市場の維持基準に抵触した企業が、本業と関係の薄い食品子会社をまとめて海外資本に譲渡する動きも出ている(ウェッジHDの和菓子子会社など)。
構造・原理
出店・閉店・M&Aの動きは「体力差の顕在化」という一言に集約できます。原材料費・人件費の高騰が続く中、値上げの交渉力や物件条件の交渉力を持つ大手・チェーンは、モール・駅前複合施設・都市公園・空港という集客装置に乗る形で出店を継続できるだけでなく、国内が成熟すれば海外へ、国内であればエリア拡大へと展開の軸を広げられます。対して単独出店の小・零細店は、値上げが「割高感」として跳ね返りやすく、値上げ・原価の負担を客に転嫁しきれずに閉店・倒産に至るケースが目立ちます。
直近の出店動向を並べると、大手と個店で向かう先がはっきり分かれていることが見えてきます。大手チェーンは駅前・空港・都市公園のように、既存の人の流れが保証された「集客装置」に相乗りする出店を選びます。施設側が集客力を提供し、チェーン側はその導線に乗るだけで新規顧客を得られる分業構造です。都市公園の整備に民間資金・ノウハウを活用するPark-PFI制度の広がりも、公共空間を新たな出店先に変える一因になっています。一方、個店は単独商圏の開拓ではなく、既存商圏内での「移転」や地方への拠点移動によって立地を再構築する動きが目立ちます。看板メニューやスタイルは変えずに立地だけを動かし、新規客と既存客の両取りを狙う経営判断であり、居抜き物件をそのまま活用して初期投資を抑える参入パターンも並走しています。同じ「出店」という統計上の分類でも、経営の自由度と資金力によって選べる選択肢はまったく異なります。
M&Aの発生理由も一つではありません。資金繰り悪化から非中核店舗・ブランドを譲渡するケースに加え、後継者不在や経営環境の変化を背景に個人色の強い人気店の運営権が他社へ移るケース、上場市場の維持基準への抵触という金融・資本市場側の事情から非中核事業がまとめて切り離されるケースが並存しています。ウェッジHDが和菓子・ゴム・テニス用品の4子会社をタイ資本に譲渡した例は、食品事業そのものの不振ではなく親会社の「選択と集中」戦略が引き金になっている点が特徴で、海外投資会社が受け皿になる構図は近年の中小食品メーカーM&Aに共通する傾向です。
出店の形態自体も多様化しています。単独路面店だけでなく、シェア型フードホールへの出店、居抜き物件を活用した業態転換、既存の人気ブランドが間口の広いサブブランドやフードコート専門業態を立ち上げて商業施設に進出する「業態多層化」が広がっています。これは補助金・資金繰りの厳しさが背景にあり、出店側も「賭ける」より「試す」姿勢が強まっている表れです。
経営の打ち手
出店を検討する場合、まず単独路面店にこだわらず選択肢を広げる余地があります。
- シェア型フードホールやフードコートへの小型出店で需要を検証してから本格展開する