外食の軽減税率格差とは
2019年の消費税引き上げ時、日本は「食料品は8%(軽減税率)、外食は10%(標準税率)」という区分を導入しました。テイクアウトや持ち帰りは軽減税率、店内で飲食する「外食」はサービス提供とみなされ標準税率という線引きです。
2026年9月時点で、この構造がさらに動こうとしています。政府は2025年8月5日の臨時閣議で、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間、現行8%から1%へ引き下げる方針を決定しました。これは1989年の消費税導入以来初の減税となる見通しで、2029年度に本格導入が予定される給付付き税額控除までの「つなぎ」措置と位置づけられています。残る1%分は中低所得者向け給付と組み合わせ「実質ゼロ化」を狙うとされています。一方で外食・酒類は10%のまま据え置かれる公算が大きいと報じられています。
ただし2026年8月24日時点で、この関連法案はまだ成立していません。制度自体は「方針」の段階にあり、今後の国会審議で対象範囲や実施時期が変わる可能性も残ります。持ち帰りやスーパーで購入する飲食料品が対象で、店内飲食(外食)は従来通り軽減税率の対象外とされてきた経緯を踏襲する形で、今回の1%措置も外食には適用されない可能性が高いとみられています。
この結果、食料品・中食と外食の税率差は現行の2%から最大9%へ拡大する見通しです。政府・与党内では税収の一部を外食業界への補助金支援に充てる案も検討されており、補助金・資金繰りの動向とも関わってきます。
構造・原理
この格差の根本は「外食=サービス提供」という税制上の区分にあります。同じ食材でも、店内で調理・提供され接客や空間という付加価値が伴うものは標準税率、持ち帰りやスーパーの惣菜は軽減税率という設計です。
税率差が広がるほど、消費者にとって「家で食べる(内食)」「買って帰る(中食)」の相対的なコストメリットが増します。ロイヤルホールディングスの社長も、この税率差によって内食・中食が需要を「受ける」可能性を懸念し、テイクアウトメニューや店頭販売の強化を打ち出しています。中食との競合構造は、値上げ・原価の議論とも密接に絡みます。
食料品だけが減税され外食が据え置かれる構造は、外食業界の値上げをしにくくする副作用も指摘されています。仕入れコストや人件費が上がり続ける中、割高感が強まるほど価格転嫁への理解を得づらくなり、結果として人手・賃金の原資確保が難しくなるという懸念です。制度の細部が経営の賃上げ判断まで左右しかねない局面に入っています。
この懸念は労働組合側からも表明されています。国内最大の産業別労働組合UAゼンセン(流通・外食・繊維など2151組合、196万人超が加盟)の永島智子会長は2026年9月3日の記者会見で、来春予定される期間限定の消費税減税について「賃上げに影響させるべきではない」と発言しました。業種によって減税の影響度は異なり、特に人手不足が顕著な外食への影響を懸念し、経営者側の理解と政府による賃上げ支援策を求めています。制度変更を賃上げ交渉の口実にしないという整理が、労使双方に求められている状況です。
この税率差は、実店舗を持たずデリバリー専用で営業するゴーストレストランの増加要因としても指摘されています。2025年8月時点の報道では、食品デリバリー大手の売上原価率が前年85.4%から99.5%へ急上昇し、9か月間で売上高282.9億円に対し粗利がわずか1.4億円という薄利構造が明らかになりました。それでも軽減税率の恩恵を受けやすいデリバリー業態への参入は続いています。
もっとも、制度上の税率差と実際の店頭価格の変化は必ずしも一致しません。2025年8月28日公表のミツモア調査(店内飲食を提供する飲食店経営者533人対象)では、店内飲食とテイクアウトの両方を提供する回答者134人のうち「テイクアウトを店内より安くする」方針の店舗は23.1%にとどまりました。個人店では17.5%と、法人・チェーン等の半分以下の水準です。減税方針が示されても、それを店頭価格に反映させるかどうかの判断は現場に委ねられており、規模による対応力の差が表れています。
一方で消費者調査からは異なる示唆も出ています。ホットペッパーグルメ外食総研の2026年6月調査(首都圏・関西圏・東海圏、20〜69歳)では、食料品・中食の軽減税率が0%またはそれに近くなった場合でも、外食費を「今まで通り」続ける意向が76.0%に上り、「頻度を下げる・節約する」は17.2%にとどまりました。減税で浮いたお金の使い道も「貯蓄」14.7%、「食費以外の消費」14.3%と、外食から他分野へ流れる比率は限定的です。税率差の拡大が即座に外食離れへ直結するとは限らない、という見方もできます。
経営の打ち手
税率差の拡大は構造として避けられませんが、経営判断の余地は複数あります。
- 関連法案が2026年8月時点で未成立であることを踏まえ、今後の国会審議や関連報道を注視し、確定情報が出るまで大きな投資判断は保留する