いま何が起きているか
持ち帰り弁当・惣菜・テイクアウトを指す「中食」は、外食チェーンやコンビニ、スーパー、食材宅配まで参入業態が広がり続けています。2026年7月時点では、大手各社がEC・宅配プラットフォーム・デリカ強化への投資を加速させています。
- ローソンのデリバリー事業は2025年度売上高が前年比4割増となり、全国約8000店舗に拡大。記録的猛暑となった2025年7〜8月にはUber Eats経由売上が前年比約4割増、アイスは約5割増、冷たい麺は約7割増と季節需要が伸長。店内厨房を使うゴーストレストラン事業も約1600店に拡大し、導入店では店内調理品売上が1〜2割増。8月には新配送サービス「ロケットナウ」を神奈川県内で先行導入する
- 松屋フーズがECモール「Temu」に出店し半年目標を3カ月で達成した後、7月27日には国内向け越境EC「AliExpress」にも公式ショップを開設(海外発送は対象外)。牛めしの具(プレミアム仕様)やカレー・惣菜のセット商品を販売し、8月14日からは同モールの年間最大級セールにも参加予定
- 江崎グリコが大阪限定だった健康社食デリバリー「SUNAOデリバリー」を首都圏に展開。2026年4月に東京・丸の内で開始し、5月以降は渋谷・赤坂の企業にも提供先を拡大。管理栄養士監修の日替わりランチを福利厚生として届ける仕組みで、外食ランチの値上がりとオフィス街の店舗不足を背景に利用が伸びている
- 食品スーパー「ロピア」系列のeatopiaが横浜市都筑区の焼肉店「ギュウトピア」を夏季限定で「万福屋」に業態転換し、大人3,980円のうなぎ食べ放題を7月26日〜9月30日で展開。2026年1月の大阪イベント出店が最大3時間待ちの人気となったことを受けた初の商業施設内展開で、オープン前から500件超の予約が入った
- ゴーゴーカレーが東京・糀谷駅前に新店を出店し、周辺商店街の業態構成に合わせてポークロースカツやからあげなどの持ち帰り総菜を単品販売する新業態を展開
- アークス(北海道)とカスミ(東京・木場)が生鮮・デリカ特化型の売場・業態を強化。オイシックスの「包丁いらず」ミールキット売上は前年比3.34倍に拡大
一方で、韓国料理テイクアウト専門店「SOLARIA」(長野県)は売上を確保していたにもかかわらず、材料費・人件費の高騰で利益が出ず破産準備に入りました。福井のうなぎ専門店も、卸値が27%下がったにもかかわらずコメ価格やテイクアウト容器代の上昇で価格を下げられず苦境に立っています。中食市場の拡大と、個店の利益体質の脆さが同時に進んでいる構図です。
また、冷凍食品大手ニチレイが7月13日に受けたサイバー攻撃によるシステム障害は、7月24日に受発注制限が全拠点で解除され約10日余りで収束しました。取引先は約5000社に及んだとされ、外食チェーンのメニュー制限やスーパーの冷凍食品欠品が一時的に発生しました。
構造・原理
中食が拡大する背景には、単身世帯の増加や時短ニーズだけでなく、人手不足による店内飲食のオペレーション負荷回避という側面もあります。テイクアウトや宅配は、ホールスタッフを最小限にできるため、大手チェーンにとって省人化と収益源の多角化を同時に狙える業態です。ローソンが猛暑という外部環境の逆風を、店舗網の密度と24時間稼働、店内厨房を活かしたデリバリー強化で追い風に変えている点は、業態を分散したリスクヘッジの有効性を示しています。
EC・宅配チャネルの多様化も進んでいます。松屋フーズは既存の大手モールに加え新興プラットフォーム「Temu」、越境EC「AliExpress」への出店で、店舗商圏の外にいる顧客層にも短期間でリーチできることを示しました。ローソンもUber Eats・出前館・menuに自社アプリを重ね、8月からは「ロケットナウ」との連携も始めます。複数チャネルを並行運用することで、既存の顧客層とは異なる購買層への接点を増やす戦略が業界全体で強まっています。大手チェーンは本社機能や新拠点を動かしてまで新業態開発に力を入れ、新業態競争は中食領域でも激しさを増しています。
中食の対象も家庭内食にとどまらず、法人向けに広がっています。江崎グリコの健康社食デリバリーは、外食ランチの値上げとオフィス街の店舗不足という構造的な問題を背景に、福利厚生という文脈で企業に導入される新しい中食の形です。単なる宅配弁当ではなく健康経営という付加価値を打ち出している点が、従来のテイクアウト・宅配との違いといえます。
季節需要への対応も中食の重要な競争軸になっています。ロピア系列が焼肉店を丸ごと期間限定のうなぎ食べ放題業態に転換した事例は、食品スーパーの仕入力を武器に季節限定・体験型の切り口で客足を集める好例です。ローソンが猛暑期にアイスや冷たい麺の売上を伸ばした動きも同様に、季節性に合わせた商品構成の柔軟さが中食の強みになることを示しています。
出店戦略にも地域性を織り込む動きが見られます。ゴーゴーカレーの糀谷店は、周辺の商店街に総菜屋や八百屋が並ぶ地域性を踏まえ、カレー専門店でありながら揚げ物を単品総菜として販売する構成にしています。業態の境界が緩やかになり、専門店が周辺の生活動線に合わせて商品構成を柔軟に変える例です。
ただし、売上規模と利益体質は別問題です。テイクアウト・弁当業態は単価が低く、原価の変動がそのまま利益を直撃しやすい構造があります。うなぎのように仕入れ値が下がっても、人件費・コメ価格・容器代など別のコストが上がれば利益は改善しません。専門店は仕入れ量が少なく固定費比率も高いため、同じ食材価格の変動でも量販店より受ける影響が大きくなります。
物流網の単一障害点リスクも見えてきました。ニチレイのシステム障害では複数の外食チェーンで品切れ・臨時休業が発生した一方、新潟市東区の給食食材卸売業者は複数メーカーと取引を分散していたため学校への納入が滞りませんでした。平時の分散体制と外部要因の両方が明暗を分けたことが分かります。
経営の打ち手
中食参入を検討する場合、まず自店の強みが「持ち帰り・宅配に向く商品」かどうかを見極めることが出発点になります。焼肉や揚げ物系のように持ち帰りでも味の劣化が少ない業態は参入しやすい一方、店内での提供体験が価値の中心の業態は無理に中食化しない選択も合理的です。
- 小規模な催事出品やポップアップ出店で反応を見る(単独出店のリスクを抑える)