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飲食店の値上げ・原価問題の現在地

経営の論点/値上げ・原価
最終更新:2026年7月28日 飲食note・フクタンの経営ノート

いま何が起きているか

2026年7月時点で、外食業界の値上げは業態を問わず広がっています。サイゼリヤは7月15日の決算会見で、松谷秀治社長が消費者物価指数の動向を見ながら9月以降、遅くとも2027年8月期を目処に価格改定を検討していると表明しました。2020年7月にミラノ風ドリアを299円から300円に端数調整して以来、約6年ぶりの本格的な値上げ検討です。試算では客単価を10円引き上げるだけで約20億円の増益効果が見込まれるとされ、客数増や販管費圧縮だけではコスト高を吸収しきれなくなった実情が数字で裏付けられました。同時に発表した決算は純利益が前年同期比12%増の87億円と過去最高を更新し、発表後の7月16日には株価がストップ高、17日終値は7600円まで急騰しました。国内平均客単価は862円まで上昇し、ファストフードの平均ランチ代(約796円)との差はわずか66円まで縮まっています。松谷社長は全国一律価格から立地別価格への移行も視野に入れており、値上げ後も「アフォーダブルプライス」の範囲に収める考えを示しています。低価格路線の代表格が値上げに動くことすら好意的に受け止められる状況は、外食全体の値上げ許容度が上がっていることを示しています。

回転寿司大手のスシローも7月22日から定番メニューの約1割を20〜30円値上げしました。厳選まぐろ赤身は郊外型120円→150円、都市型では150円→180円と地域別に価格を改定する一方、サーモンやえびなど「120円から」の看板価格帯は維持しています。対象商品を絞り、人気商品や低価格帯は据え置くことで客離れを避けながらコストを吸収する典型的な手法です。すし業態の価格戦略としても参考になります。

ステーキチェーンのブロンコビリーは2026年1〜6月期に売上高164億円(前年同期比12.9%増)、純利益12億円(同53.3%増)と過去最高を更新し、通期の純利益予想も前期比32%増の26億円に上方修正しました。2025年11月と26年4月の2度の値上げで平均単価を約140円引き上げつつ、サラダバーをビュッフェ形式に刷新するなど付加価値投資を組み合わせた結果、既存店売上高は前年比107.7%と客数を落とさずに単価を伸ばしています。4月に子会社化した食肉加工会社の業績寄与も増益要因です。値上げと体験価値向上をセットで打ち出す手法が、大手の一つの成功例として位置づけられます。

大戸屋は鶏むね肉を使った定食など3品を定番化すると同時に、原材料費・物流費高騰を理由に一部商品の価格改定を実施しました。新メニュー投入のタイミングに値上げ告知を重ねる手法が定着しつつあります。

調味料・食品メーカーの値上げも連鎖しています。シマダヤは10月1日納品分から業務用麺の出荷価格を3〜16%値上げし、ヒゲタ醤油は業務用135品を、理研ビタミンは業務用調味料55品目を、タカキベーカリーはパン・洋菓子を、いずれも今秋にかけて値上げすると発表しました。ドトール・エクセルシオールも7月23日から約1200店で値上げし、ブレンドコーヒー(S)は300円が一つの目安になりつつあります。

一方、原料高騰でも値上げできずに苦しむ例もあります。伊藤園は世界的な抹茶ブームで原料茶葉価格が10年前の約10倍に高騰したにもかかわらず、コスト上昇分を十分に価格転嫁できず、2026年4月期の純利益は前期比7割以上減少しました。国内緑茶飲料シェア3割超のトップメーカーでも、需要増が原価高騰という重荷に転化する構図です。

価格転嫁が難しい業態では倒産も過去最多を記録しています。2026年上半期の焼肉店倒産は26件(前年同期比8.3%増)、ラーメン店倒産は36件(同44.4%増)で、いずれも統計開始以来の最多です。負債1億円未満の小規模店が全体の8割超を占めています。エー・ピーカンパニー傘下の弁当事業「おべんとラボ」のように、価格を維持しながら成長する例もあり、中食事業への展開が居酒屋業態の不振を補うリスク分散策として機能しています。

構造・原理

値上げの背景には「原材料費・エネルギーコスト・人件費」という三つのコスト要因が同時に上昇し続けているという事情があります。うなぎのようにシラスウナギの豊漁で卸値が下落する例があっても、専門店では人件費・コメ価格・容器代の上昇が別途進み、原価が下がっても収益改善にはつながりません。個別品目の値動きは方向がバラバラで、一部の下落を安心材料として全体を判断するのは危険です。

ラーメン市場では「千円の壁」を突破し価格への抵抗感は薄れつつありますが、中価格帯が縮小し、プレミアム化か効率化のどちらかへ二極化しています。中途半端な価格設定がもっとも利益率を圧迫するという指摘は、ラーメンに限らず多くの業態に当てはまります。

焼肉業態の「網交換有料化」は、原価が上げられない肉の質を守りながら周辺サービスでコストを回収する構造的対応の例です。輸入肉価格の高騰、光熱費・人件費の上昇が同時に押し寄せる中、大手チェーンが無料対応を継続する一方、個人店が有料化に踏み出すという二極化が進んでいます。焼肉業態では経営規模によって取れる対策の選択肢が異なる点が明確に表れています。

スシロー・いきなり!ステーキに代表される「選別型値上げ」が主流になりつつあるのは、値上げのたびに客数が敏感に反応する現実があるためです。対象を絞る値上げは客離れのリスクを抑えられる一方、価格表示や仕入れ管理は複雑になります。全品一律ではなく、原価上昇率が特に高い品目、客が値段を強く記憶している基準商品を見極めて選ぶ設計力が問われています。

IPコラボなどで増収を果たしながら減益に陥る企業が出ているのは、集客策とコスト管理が別軸の問題だからです。話題性のある企画は短期的な客足増加に強い効果を発揮しますが、原材料費や輸入コストの上昇分を吸収する仕組みがなければ増収減益から逃れられません。集客と収益化を分けて評価し、新規客をリピーター化・客単価向上につなげる仕組みとセットで設計する必要があります。

内閣府は7月24日公表の経済財政白書で、物価上昇や価格転嫁が企業の設備投資を押し上げているとの分析を示し、デフレ型のコストカット志向からの転換が進みつつあると指摘しました。価格転嫁分を店舗改装や省人化投資に回せるかが、今後の価格戦略を評価する新たな視点になり得ます。

経営の打ち手

値上げと集客施策は対立するものではなく、設計次第で両立します。ハイデイ日高はハイボールをわずか20円引きにしたことで注文が1.5倍に伸び、値上げをしながらも過去最高売上を更新しました。全品を動かすのではなく、集客の起点となる一品に絞って心理的なお得感を残す設計が有効です。

価格改定を検討する際は、次のような選択肢を組み合わせて判断することが考えられます。

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