いま何が起きているか
2026年9月時点で、外食業界の値上げは業態を問わず広がっています。帝国データバンクの調査では2026年9月の食品値上げが4923品目に達し、前年の約3倍のペースで2026年で最多となりました。同社の別調査では食品主要195社の2026年の値上げ品目数が1〜10月判明分で9361品目に達し、6月単月では1078品目・平均値上げ率14%が値上げされ、2026年は5年連続で年間1万品目超えとなる見通しです。キユーピーは11月1日出荷分から業務用調味料など601品目、家庭用マヨネーズ・ドレッシングなど224品目を最大25%値上げし、主力の「キユーピーマヨネーズ」は559円から611円になります。味の素も12月1日納品分から家庭用・業務用計21品を約6〜10%値上げすると発表しており、中東情勢の影響による原材料価格・包装資材費・物流費の上昇が理由とされています。家庭用では「ピュアセレクト マヨネーズ」(400グラム)など6品が対象で、キユーピー・味の素の大手2社がほぼ同時期に値上げに動いたことで、マヨネーズ・ドレッシング類の原材料・包材・物流コスト上昇が業界共通の構造的問題であることが浮き彫りになっています。
均一価格を看板にしてきたチェーンにも値上げの波は及んでいます。焼き鳥チェーン「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティジャパンは、フード・ドリンク全品を税込390円から410円へ20円値上げすると発表しました。国産鶏肉など原材料費の高騰や人件費・エネルギーコストの上昇が理由で、2022年4月以降5年連続の値上げとなります。均一価格業態でも構造的なコスト上昇を吸収し続けるのが難しくなっていることを示す事例です。
牛肉・豚肉・鶏肉といった肉類の価格上昇も深刻です。農林水産省の調査では2026年7月中旬の輸入牛肉ロース小売価格が100グラム451円となり、2003年の調査開始以来の最高値を更新しました。円安と米国の干ばつによる牛の生産減少が背景で、すき家・さわやか・焼肉きんぐなど大手チェーンで値上げが相次いでいます。米労働省が発表した8月の卸売物価指数(PPI)は前年同月比5.4%上昇し、伸び率は3カ月ぶりに拡大しました。輸入コーヒー豆や油脂、包材など海外依存度の高い食材・資材の価格動向を見る先行指標として、日本国内の仕入れコストにも時間差で影響しうる位置づけの数字です。同様の圧力は中華料理店にも及んでいます。福島県郡山市の中国料理店「姑娘飯店」は豚肉・鶏肉の高騰を受けて今春一部メニューを値上げし、鶏のから揚げは5個580円から900円へ320円上昇しました。
値上げが業績にどう跳ね返るかは企業ごとに分かれています。神戸の惣菜専門店ロック・フィールドは高級惣菜ブランド「RF1」で定番商品の値上げを実施しつつ、2026年5〜7月期に最終黒字9900万円(前年同期は赤字1000万円)を計上し、営業利益は前年比約18倍に拡大しました。一方、和食レストランの浜木綿は2026年7月期決算で客単価上昇により売上高が過去最高を記録したものの、減損損失の拡大が響き純利益は減益となり、本店休業の影響で今期は減収を見込んでいます。値上げで増収を実現しても、減損や不振店舗の処理といった別要因が利益を圧迫する構図です。
コメを取り巻く状況は他の品目と逆方向です。農林水産省の調査によると、9月6日までの1週間で全国スーパー約1000店舗のコメ平均販売価格は5kgあたり3003円となり、前週比109円値下がりし、2024年9月以来2年ぶりに3100円を下回る水準となりました。銘柄米・ブレンド米ともに値下がり傾向が続いており、米飯提供店にとっては原価環境が一時的に緩和する兆しといえます。一方で2026年産新米の集荷時に農家へ前払いされる「概算金」は16道県で前年比2〜4割下落し、栃木県のコシヒカリは45%減、岩手のひとめぼれは39%減となっており、農家の経営悪化や離農増加への懸念が指摘されています。くら寿司は9月4日から一部商品の最低価格を115円から110円へ値下げし、値下げ対象37品目と値上げ対象37品目をほぼ同数併存させる「二正面作戦」を取っています。ローソンは手巻きおにぎり全品を10円値下げしました。
深夜料金の広がりも見逃せません。すき家・松屋に続き、カレーハウスCoCo壱番屋を運営する壱番屋は2026年9月1日、国内店舗で22時〜翌5時の深夜料金7%を導入しました。『はま寿司』も2026年3月から午後10時以降一律7%加算の深夜料金を導入する予定です。消費税を巡っては、政府が飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間8%から1%へ引き下げる方針を決定しており、酒類と外食は10%据え置きのため税率差は最大9%へ拡大します。街の中華料理店では倒産が急増し2026年1〜7月で22件(前年同期比69%増)と直近15年で最多ペースです。
構造・原理
値上げの背景には原材料費・エネルギー・人件費・不動産・配送・包材コストが同時に上昇し続けている事情があります。米国の卸売物価指数の伸び拡大は、輸入コーヒー豆やナッツ、油脂、包材など海外依存度の高い食材・資材の価格が今後も国内に波及し続ける可能性を示す先行指標です。牛肉・豚肉・鶏肉の高騰、電気代の全社値上げ、キユーピー・味の素など大手メーカー主要品目の値上げ、鳥貴族のような均一価格チェーンの5年連続値上げは、これまで安定していたコスト項目まで上昇局面に入ったことを示します。
コメは逆方向に動いている点が特徴的です。小売価格・概算金の下落は外食・中食側の原価を下げる一方、生産者の経営を圧迫します。仕入れコストが下がっても、生産者の離農が進めば中長期的に供給が不安定化し、再び価格が跳ね上がるリスクを抱えています。小売価格の2年ぶり下落は歓迎材料である一方、概算金の大幅下落という別の指標が示す生産現場の苦境と併せて見る必要があります。
値上げと業績の関係は一律ではありません。RF1は値上げをしながら黒字転換し営業利益を約18倍に拡大させた一方、浜木綿は客単価上昇で売上高が過去最高を記録しても減損損失や本店休業の影響で減益となりました。値上げの成否は単純な客数増減だけでなく、店舗資産の評価や不振拠点の処理といった別軸の要因にも左右されることが分かります。
くら寿司の値上げと値下げの併存、ローソンの値下げのように、原価が下がった品目や看板商品で集客し、上がった品目で採算を取る「二正面作戦」も広がっています。体力のある大手ほど価格戦略の幅を広げられる一方、コーヒー豆高騰に直面する中小の喫茶店や、豚肉・鶏肉高騰に直面する中華料理店は、コスト転嫁と差別化を同時に迫られる厳しい立場に置かれています。深夜料金の広がりは、値上げが「全時間帯の一律引き上げ」から「コストがかかる時間帯だけを狙う」形へ細分化していることを示しています。
経営の打ち手
- 値上げか値下げかの二択ではなく、原価が上がった品目は値上げし、原価が下がった品目や集客商品は値下げ・維持する「メニューごとのメリハリ」を検討する
- 仕入れ先の食品メーカーの値上げ発表は数か月先の実施日が示されることが多い。海外の卸売物価指数のような先行指標にも目を配り、実施前にメニュー価格や提供量の見直しを準備する