いま何が起きているか
2026年9月時点で、外食業界の値上げは業態を問わず広がっています。帝国データバンクの調査では2026年9月の食品値上げが4923品目に達し、2026年で最多となりました。主要食品メーカー195社の2026年1〜11月の値上げ品目は1万8347品目に達する見通しで、8〜10月だけで9562品目が値上げ予定です。キユーピーは11月1日出荷分から業務用調味料など601品目、家庭用マヨネーズ・ドレッシングなど224品目を最大25%値上げし、主力の「キユーピーマヨネーズ」は559円から611円になります。味の素も12月1日納品分から家庭用37品目を最大15%値上げすると発表し、調味料メーカー2社が相次いで値上げに踏み切りました。中東情勢による原材料・包装資材・物流費の上昇が続き、原価上昇は一時的でなく構造的な流れとして続く見通しです。
牛肉価格の上昇も深刻です。農林水産省の調査では2026年7月中旬の輸入牛肉ロース小売価格が100グラム451円となり、2003年の調査開始以来の最高値を更新しました。円安と米国の干ばつによる牛の生産減少が背景で、すき家・さわやか・焼肉きんぐなど大手チェーンで値上げが相次いでいます。光熱費も上昇が続き、大手電力10社は2026年9月使用分の電気代を全社値上げしました。値上げ幅は252〜509円に達し、10月以降の補助金継続は未定で先行き不透明感が強まっています。
一方でコメ市場価格の下落を背景とした値下げも相次いでいます。くら寿司は9月4日から一部商品の最低価格を115円から110円へ値下げし、寿司メニューを全面改定して値下げ対象37品目と値上げ対象37品目をほぼ同数併存させる「二正面作戦」を取っています。ローソンは手巻きおにぎり全品を10円値下げ、日本マクドナルドは「セット500」を前面に出すCMを展開しており、値上げ疲れした消費者心理を捉える動きが体力のある大手から先行しています。
価格戦略の分岐も鮮明です。ロイヤルホストは客単価6%上昇でも客数が減少しない結果を確認しつつ9月に価格改定を実施しました。対照的に丸亀製麺のトリドールホールディングスは値上げ後の客数伸び悩みで過去最高益から一転減益となりましたが、ラーメンチェーン「町田商店」は客単価上昇を前年比1%以内に抑える慎重な価格運用に転換し、客数が増加傾向に転じています。
深夜料金の広がりも見逃せません。すき家・松屋に続き、カレーハウスCoCo壱番屋を運営する壱番屋は2026年9月1日、国内店舗で22時〜翌5時の深夜料金7%を導入しました。同時に既存トッピング44種のうち12種を平均17%値上げし、看板のポークカレーは646円から深夜691円になります。壱番屋は原材料費・人件費の上昇がもはや企業努力では吸収できない水準に達したと説明しています。さらに『はま寿司』も2026年3月から午後10時以降一律7%加算の深夜料金を導入する予定で、客単価帯の異なる複数チェーンが同様の対応を取り始めており、深夜帯の人件費・光熱費構造が業態を問わず共通課題であることを裏付けています。
消費税を巡っては、政府が2026年8月5日の臨時閣議で飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間8%から1%へ引き下げる方針を決定しました。対象は軽減税率適用の飲食料品のみで、酒類と外食は10%据え置きのため税率差は最大9%へ拡大します。税率差を意識するほど自炊・中食に流れる傾向が示されており、街の中華料理店では倒産が急増し2026年1〜7月で22件(前年同期比69%増)と直近15年で最多ペースです。
海外でも同様の構造的な逆風が確認されています。英国では外食客の3分の1以上がレストラン訪問を減らし、米国では約7割が外食頻度を減らしたとYouGovの調査で判明しました。世界的にメニュー価格は前年比約4%上昇し、エネルギー費・賃金・原材料インフレが背景にあります。対応として、Pizza ExpressやNando’sのようなロイヤリティプログラム、First TableやEatClubのようなオフピーク予約プラットフォームが広がり、最大50%の割引で空席時間帯の稼働率を上げる動きが出ています。原価高が客数減を招く連鎖は国内外共通の課題であり、コスト高が続く限り日本でも同様の現象が起こり得ます。
構造・原理
値上げの背景には原材料費・エネルギー・人件費・不動産・配送・包材コストが同時に上昇し続けている事情があります。牛肉の過去最高値更新、電気代の全社値上げ、キユーピー・味の素など大手メーカー主要品目の値上げは、これまで安定していたコスト項目まで上昇局面に入ったことを示します。一方でコメのように市場価格が下落し他の品目にも波及するケースもあり、原価は品目ごとに動きが異なる点に注意が必要です。
値上げと客数の関係も一律ではありません。ロイヤルホストの客単価6%上昇でも客数が減らないというデータと、丸亀製麺の客数伸び悩みは正反対の結果です。町田商店が客単価の伸びを前年比1%以内に抑えて客数を回復させた事例は、値上げ幅の大小そのものが客離れを左右する重要な変数であることを示しています。海外調査で外食頻度を減らした客が過半に達している事実は、値上げが積み重なるほど客の許容量を超えるという構造をより広く裏付けています。
くら寿司の値上げと値下げの併存、ローソン・マクドナルドの値下げ・低価格訴求のように、原価が下がった品目や看板商品で集客し、上がった品目で採算を取る「二正面作戦」も広がっています。体力のある大手ほど価格戦略の幅を広げ、集客と採算確保を分けて設計できるためと考えられます。
深夜料金の広がりは、値上げが「全時間帯の一律引き上げ」から「コストがかかる時間帯だけを狙う」形へ細分化していることを示しています。すき家・松屋・ココイチに加えはま寿司も追随したことは、深夜帯の人件費・光熱費構造が業態を問わず共通の課題であり、時間帯別の価格転嫁が業界標準になりつつあることを物語ります。
消費税の税率差は、飲食店側の価格戦略だけでなく客の行動選択自体を変え始めている点が新しい構造です。食料品減税が外食を含まないことで、外食は「割高」に見られやすくなる構造的リスクを抱えます。海外のロイヤリティプログラムやオフピーク割引の広がりも、値上げによって離れた客をどう再度呼び戻すかという同じ構造課題への対応策と位置づけられます。
経営の打ち手
- 値上げか値下げかの二択ではなく、原価が上がった品目は値上げし、原価が下がった品目や集客商品は値下げ・維持する「メニューごとのメリハリ」を検討する
- 大手が値下げに動いていても単純な追随判断は避け、自社の原価構造と客層をふまえて個別に判断する