最低賃金とは
最低賃金は、国が定める時給の下限額です。厚生労働省の中央最低賃金審議会が全国平均の「目安」を示し、各都道府県の地方審議会がそれを踏まえて実際の金額を決定する二段階の仕組みになっています。都道府県は経済状況に応じてA・B・Cのランクに分けられ、ランクごとに目安額が異なります。
2026年度の全国加重平均は1177円で決定しました(2026年9月時点)。現行の1121円から56円の上昇で、過去最大規模の上げ幅です。国の目安55円をわずかに上回る結果となりました。最高は東京都の1280円、最低は宮崎県の1085円と、地域間の差は200円近くに達し、13年連続で200円を超える格差が続いています。
飲食経営にどう関係するか
飲食業は人件費比率が高い労働集約型の業態が多く、最低賃金の動向がそのまま採算に直結します。マイナビの調査(2025年12月〜2026年5月)では、ホールキッチン・調理補助の時給を引き上げた企業が75.0%と業種別で最高水準となり、その理由の多くが「最低賃金の改定のため」という受動的な対応でした。人手・賃金の逼迫と最低賃金の上昇が重なり、飲食店の人件費は毎年恒常的に押し上げられる構造になっています。
2026年9月25日時点、シンクロ・フードが「飲食店ドットコム」会員の飲食店経営者を対象に実施した調査では、56円という過去最大の上げ幅について4割超が「想定以上だった」と回答し、半数以上が経営への影響を懸念していることが分かりました。物価や原材料費の高騰が続くなかでの人件費上昇が、現場の負担感を強めている実態がうかがえます。
引き上げ額をそのまま時給に反映するかどうかは各社の裁量に委ねられており、その差が労使間の摩擦を生む例も出ています。9月28日18時〜23時30分、神戸市灘区の大手回転寿司チェーン・灘新在家店で、回転ずしユニオンに加入するパート・アルバイトがストライキを実施しました。10月1日からの兵庫県の最低賃金改定(1116円→1172円、56円増)をそのまま時給に反映するよう求めましたが、会社側の回答は40円にとどまり、溝が埋まらないままの実力行使となりました。同ユニオンはこのチェーンのほか、はま寿司や根室花まるなど全国の回転ずしチェーンの非正規労働者を組織しており、最低賃金の改定幅と会社側の実際の昇給幅にギャップが生じやすいことは、非正規比率の高い飲食業全体に共通するリスクといえます。
最低賃金の急上昇がパート・アルバイトの時給に直接反映される一方、正社員の賃上げ幅がそれに追いつかず、非正規の賃上げ率が正社員を上回る「逆転現象」がUAゼンセンの2026年春闘最終集計でも示されています。非正規比率の高い流通・サービス業では、限られた賃上げ原資を正社員とパートのどちらに重点配分するかという難しい判断を迫られており、飲食店にも同様の構造が当てはまります。
さらに、時給を上げること自体の効果にも限界が見えてきています。エデンレッドジャパンの調査(パート雇用企業担当者300名・現役パート300名の計600名対象)では、時給を引き上げた企業の82.6%が「時給だけでは採用・定着に限界がある」と回答しました。時給が上昇した層でも、福利厚生への満足度の違いによって「大切にされている」という実感に35.8ポイントの差が生じることも分かっています。
また、地域ごとに引き上げ時期がずれる問題も経営に影響します。学食運営会社のように価格転嫁がしにくい業態では、賃上げ原資を人員配置や仕入れの見直しで捻出せざるを得ないケースも出ています。値上げのタイミングを最低賃金の発効時期に合わせにくいことが、値上げ・原価戦略を複雑にしています。
2025年度は自治体トップの発言などで地域間の「上乗せ競争」が起き、一部県では発効が年度末まで遅れる混乱もありました。2026年度はこの政治的圧力が弱まり、上げ幅も適用時期も落ち着いた形に戻っています。32都道府県のうち多くが例年通り10月発効となり、京都・愛媛のみ11月発効です。国の審議会は地域間競争の抑制と早期適用の促進という方向性を打ち出しており、今後は自治体単独の突出した引き上げは起きにくくなる見通しです。
経営の打ち手
最低賃金の上昇は毎年ほぼ確実に起きる前提として、価格改定・生産性向上・採用戦略・賃金配分の見直し・非金銭的待遇の充実・公的支援の活用の六方向で備えることが有効です。
- 人件費上昇分を段階的にメニュー価格へ転嫁する。看板商品のみ値上げするなど部分対応も選択肢になる










