最低賃金とは
最低賃金は、国が定める時給の下限額です。厚生労働省の中央最低賃金審議会が全国平均の「目安」を示し、各都道府県の地方審議会がそれを踏まえて実際の金額を決定する二段階の仕組みになっています。都道府県は経済状況に応じてA・B・Cのランクに分けられ、ランクごとに目安額が異なります。
2026年度の全国加重平均は1177円で決定しました(2026年10月時点)。現行の1121円から56円の上昇で、過去最大規模の上げ幅です。国の目安55円をわずかに上回る結果となりました。最高は東京都の1280円、最低は宮崎県の1085円と、地域間の差は200円近くに達し、13年連続で200円を超える格差が続いています。
政府は2030年代前半までに全国平均で最低賃金1500円を達成する新方針を示しました(2026年10月18日時点)。石破政権時代に掲げられていた「2020年代に1500円」目標からは後ろ倒しとなった形で、急激な引き上げへの経営側の負担感にも配慮した軌道修正といえます。
飲食経営にどう関係するか
飲食業は人件費比率が高い労働集約型の業態が多く、最低賃金の動向がそのまま採算に直結します。マイナビの調査(2025年12月〜2026年5月)では、ホールキッチン・調理補助の時給を引き上げた企業が75.0%と業種別で最高水準となり、その理由の多くが「最低賃金の改定のため」という受動的な対応でした。人手・賃金の逼迫と最低賃金の上昇が重なり、飲食店の人件費は毎年恒常的に押し上げられる構造になっています。
帝国データバンクが全国2万2,095社を対象に実施した調査(2026年10月19日時点)では、企業が採用時に提示する最低時給は平均1,255円で前年から50円上昇しました。2026年度の最低賃金1,177円との差は78円となり、2025年の84円から6円縮小し、2年連続の縮小となっています。つまり、企業は最低賃金の改定を待たずに、採用競争上すでにそれを上回る時給を先取りして提示せざるを得ない状況にあります。一方で企業が事業を継続しながら支払えると考える最低時給の上限は平均1,275円にとどまり、採用時給の水準はすでにこの上限に近づきつつあります。近年の引き上げペースについては「速すぎる」が42.3%で最多となり、「妥当」の34.4%を上回っており、経営体力とのギャップは依然として埋まっていません。
2026年10月9日時点、シンクロ・フードが飲食店経営者235人に実施した調査では、56円という過去最大の上げ幅について43.0%が「想定より高い」と回答しました。改定前の時給は「最低賃金と同額」が28.9%で最多となっており、すでに多くの店舗で最低賃金ぎりぎりの運営が常態化していることがうかがえます。見直し方針は引き上げ額をそのまま時給に反映する予定が47.2%で最多だった一方、据え置きで対応できる店舗は35.3%にとどまりました。改定後の時給は「最低賃金と同額」とする予定が31.1%、「+10〜49円」が26.0%で、時給が最低賃金に収斂していく傾向が示されています。
引き上げ額をそのまま時給に反映するかどうかは各社の裁量に委ねられており、その差が労使間の摩擦を生む例も出ています。9月28日、神戸市灘区の大手回転寿司チェーン・灘新在家店で、回転ずしユニオンに加入するパート・アルバイトがストライキを実施しました。10月1日からの兵庫県の最低賃金改定(1116円→1172円、56円増)をそのまま時給に反映するよう求めましたが、会社側の回答は40円にとどまり、溝が埋まらないままの実力行使となりました。
最低賃金の急上昇がパート・アルバイトの時給に直接反映される一方、正社員の賃上げ幅がそれに追いつかず、非正規の賃上げ率が正社員を上回る「逆転現象」がUAゼンセンの2026年春闘最終集計でも示されています。非正規比率の高い飲食業にも同様の構造が当てはまります。
さらに、時給を上げること自体の効果にも限界が見えてきています。エデンレッドジャパンの調査では、時給を引き上げた企業の82.6%が「時給だけでは採用・定着に限界がある」と回答しました。
地域ごとに引き上げ時期がずれる問題も経営に影響します。2025年度は自治体ごとの発効時期にばらつきが生じ、群馬県は2026年3月発効と全国で2番目に遅い例となりました。学食運営会社のように価格転嫁がしにくい業態では、賃上げ原資を人員配置や仕入れの見直しで捻出せざるを得ないケースも出ており、値上げのタイミングを最低賃金の発効時期に合わせにくいことが値上げ・原価戦略を複雑にしています。2026年度はこうした地域間の上乗せ競争がやや落ち着き、32都道府県のうち多くが例年通り10月発効、京都・愛媛のみ11月発効となりました。
経営の打ち手
最低賃金の上昇は毎年ほぼ確実に起きる前提として、価格改定・生産性向上・採用戦略・賃金配分の見直し・非金銭的待遇の充実・公的支援の活用の六方向で備えることが有効です。
- 人件費上昇分を段階的にメニュー価格へ転嫁する。看板商品のみ値上げするなど部分対応も選択肢になる










