フクタンの経営ノート
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回転寿司・すし業態の値上げ・値下げと二極化の構造

業態別/すし
最終更新:2026年9月8日 飲食note・フクタンの経営ノート

いま何が起きているか

2026年9月時点で、すし業態は「大手回転寿司の攻勢」と「町場すし店の苦境」の分岐に加え、価格帯そのものが上下二方向に広がる「K字型」の再編が鮮明になっています。松屋フーズが上質路線の新業態「松屋PREMIUM」を銀座に出店し、くら寿司が上位業態「無添蔵」を拡大する一方、高級鮨店「銀座おのでら」が回転寿司や立ち食い業態へ進出しており、大衆店は上へ、高級店は下へと同時に動く構図が広がっています。帝国データバンクによると9月の飲食料品値上げは4923品目に達し2026年で最多となる一方、くら寿司やイオン、ローソンは値下げや具材を減らした「引き算」商品で対抗しており、業界全体でも値上げと値下げが同時進行するK字型の傾向が顕著です。

回転寿司大手3社の明暗も一段と鮮明です。スシローを運営するF&LCは値上げをしても客数を増やしており強さが際立ちます。かっぱ寿司は90円という低価格戦略で客数を伸ばす一方、くら寿司は相対的に力強さを欠く展開です。くら寿司は2026年10月期中間期で売上高1252億円(前年同期比6.5%増)と増収でしたが、営業利益は24億円で同14.7%減の増収減益でした。原価率41.1%→41.5%、販管費率56.6%→57.0%という固定費側の圧迫が主因で、国内の利益率は3.7%へ低下、一方で北米は赤字幅縮小、アジアは利益率改善という対照的な構図です。フードリンクニュースの1Q決算分析によると、3月決算の外食大手42社のうち約4割にあたる12社が営業赤字に沈む一方、牛丼・回転寿司・焼肉といった主要カテゴリーではゼンショーHDのようなカテゴリートップ企業だけが独走する格差構造が業界横断で確認されています。ゼンショーHDの2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算は売上高・営業利益・経常利益・純利益がいずれも2ケタ増、純利益は前年同期比89.2%増という大幅増収増益でした。注目すべきは稼ぎ頭の交代で、従来の主力だった「すき家」ではなく回転すし業態の「はま寿司」が売上・利益の両面で首位に浮上しています。牛丼業態より客単価・原価バランスに優れた回転寿司業態の収益力が、グループ内の力学を変えつつあることを示す出来事です。傘下のカッパ・クリエイトも2027年3月期第1四半期に営業利益7億7百万円の赤字に転落し、「稼ぐ力の低下」が明確になりました。

くら寿司は9月4日から全国店舗で寿司メニューの価格を全面改定しました。「ねぎまぐろ」「たまご焼き」など20品目を5円値下げして最低価格を115円から110円へ約3年ぶりに引き下げる一方、「サーモン」「生えび」「赤貝」など33品目は120円へ値上げしました。同日には創業50周年(2027年5月)を見据えた「北海フェア」も開始し、かに軍艦を10日間限定で110円提供するなど、価格改定と周年企画を組み合わせて話題化を図っています。

しかし話題化の代表格だった人気キャラクター「ちいかわ」との4度目のコラボは、想定外の結末を迎えました。2023年以降毎年実施され、2024年3月の企画では既存店売上高を押し上げる効果もあった人気施策でしたが、8月21日開始後、景品「ビッくらポン!」を巡り「1万8000円分注文しても対象フィギュアが一つも当たらない」といった投稿を発端に、メルカリなどフリマサイトでの限定フィギュア転売が急拡大しました。この外部の兆候から社内調査が始まり、9月2日に調査開始と「鍵付き倉庫で複数名管理」との説明を公表しましたが、わずか3日後の9月5日、1店舗で従業員による景品の横領が判明したと発表しました。9月6日の営業開始時点で景品配布・グッズ配布・コラボメニュー・店内装飾を含む全施策を中止し、株価も下落しました。おわびとして9月6日・7日の2日間、店内飲食時の全品10%割引を実施したほか、テイクアウトの新規予約受付を一時停止しました。報道によると、この即断対応の背景には9月11日に控える2026年10月期第3四半期決算があったとみられ、事実関係の整理・処分・再発防止策・集客への影響を決算発表前に示す必要があったことが、通常より早い幕引きにつながった可能性が指摘されています。JBpressの分析は、これをAI監視カメラだけでは防げない「内なる転売ヤー」問題と位置づけ、在庫記録・例外検知・映像確認を組み合わせた内部不正防止の仕組みが必要だと指摘しています。AIやカメラによる監視は万引きなど外部不正には有効でも、従業員自身が関与する内部不正には別の対策が要る点が、今回改めて浮き彫りになりました。

F&LCはテイクアウト子会社「京樽」を9月1日付でSRSホールディングス(和食さと運営)へ37億4500万円で譲渡しました。京樽は9月4日から「回転寿司みさき」「すしみさき」「立食い寿司みさき」でノルウェー大使館水産部との初タイアップ企画を開始し、ノルウェーサーモンを使った5商品を投入するなど、譲渡後も独自の集客施策を継続しています。あきんどスシローは職場環境改善により国内グループ正社員の離職率を約10%に抑えており、9月2日から「赤しゃり」で希少ネタを楽しむ期間限定フェアも開始しました。かっぱ寿司も秋フェアでトリュフマヨ寿司や本格ダージリンスイーツを投入するのに加え、9月17日からは絵本「はらぺこあおむし」をモチーフにした「つながるチャームコレクション」を全店のカプセルトイ機で展開します。

訪日外国人客の取り込みも活発化しています。「にぎりの徳兵衛」「海鮮アトム」を展開するチェーンは訪日客向けメニューを大幅に刷新しました。回転寿司業態は「安価で本格的な寿司体験」を求める訪日客との相性が良く、インバウンド戦略の先行事例として注目されやすい業態です。

海外展開はさらに具体化しています。F&LC傘下のスシローは、米国初出店となる店舗をニューヨーク・タイムズスクエア地域に2026年10月開業すると正式発表しました。150席・個室3部屋を設け、皿の色で価格帯を分ける日本と同様の仕組みを採用しつつ、マグロ・サーモンは2貫5ドル、大トロは約1600円からで、国内の最低価格帯(120〜130円程度)と比べ約7倍の価格設定です。チップ不要の方針も打ち出しています。くら寿司は台湾市場向けにみかん果汁を使った「みかん鯛」「みかんブリ」を投入するなど、現地嗜好に合わせたローカライズも進めています。あわせてゼンショーHDの「はま寿司」がベトナム・ホーチミンに1号店を開業し、海外店舗数は2026年6月末で304店舗に達しています。国内では、はま寿司が2026年3月から午後10時〜翌朝5時の注文を対象に一律7%加算の深夜料金を導入予定で、外食大手『壱番屋』も同様の深夜料金(22時〜翌5時、7%加算)を導入するなど、人件費・光熱費上昇を時間帯別に転嫁する手法が広がっています。

宅配寿司の分野でも動きがあります。「つきじ海賓」を展開するサンライズサービスは、ラストマイル物流DXのエニキャリと提携し、自社配送に加えて外部の配送ネットワークを活用できる体制を構築しました。国内では、名古屋発の共和フーズ「札幌魚河岸57番 いきいき寿司」がららぽーと豊洲に東京都内初出店するなど、地方発ブランドの東京進出も進んでいます。米卸大手・神明の外食子会社「元気寿司」は200店舗に到達し焼肉業態にも新規参入しました。牛丼・京風うどんチェーン「なか卯」は9月2日、期間限定で「ウニ丼」「ウニまぐろ丼」を発売し、並盛1780円という高単価商品で客単価アップを狙う動きも見られます。業績面では、魚力は2027年3月期第1四半期で増収増益を確保しましたが、通期予想は営業利益22.1%減へ下方修正されました。町の寿司店では倒産が再び増加傾向にあり、職人確保の難しさとインバウンド依存という二重の課題が続いています。

構造・原理

すし業態は「職人の技術依存度」が高いことが二極化の構造的要因です。大手チェーンは資本力で商品開発・販促・海外展開・価格設計を仕組み化できます。松屋PREMIUM、無添蔵の拡大、銀座おのでらの大衆業態進出が示すのは、価格帯による棲み分けそのものが崩れつつあるという構造変化です。外食大手42社の1Q決算で約4割が赤字に沈む一方、ゼンショーHDのようなカテゴリートップだけが独走している事実は、規模とブランド力が業績を左右しやすい業界特性を改めて示しています。加えてゼンショーHD内で「はま寿司」が「すき家」を上回る稼ぎ頭になった事実は、同一グループ内でも業態ごとの客単価・原価バランスの差が業績に直結することを示しています。

回転寿司大手3社の明暗は、値上げに耐えるブランド力(F&LC)、低価格で客数を稼ぐ戦略(かっぱ寿司)、両者の間で苦戦する立ち位置(くら寿司)という3パターンを同時に示しています。くら寿司の価格改定は、集客の核となる商品は価格を維持・引き下げつつ、原価上昇が著しい食材だけ値上げする「メリハリ型」の価格戦略として整理できます。値上げが年間最多となる局面で、体力のある大手ほど一部商品をあえて値下げして集客を強化する動きは、値上げ・原価を単一原材料だけでなく「集客の核となる商品」と「利益で稼ぐ商品」に分けて管理する発想の重要性を示しています。

ちいかわコラボの顛末は、話題性の高いIPコラボほど景品の在庫・配布ルールの透明性が問われるという構造を、実際の中止という結果で裏付けました。メルカリなど外部の二次流通に異常な出品が現れたことが発覚のきっかけとなった点は、社内の管理体制だけでなく外部モニタリングの重要性も示しています。またAI・カメラによる監視は万引きなど外部不正には効いても、従業員自身が関与する内部不正には別の仕組みが必要という指摘は、集客・販促施策の裏側にある運用リスクの本質を突いています。加えて、決算発表という節目が迫っていたことが即断対応の背景にあったとみられる点は、危機対応のタイミングが企業のIR(投資家対応)とも直結する構造を示しています。対照的に、かっぱ寿司のカプセルトイ企画は景品の希少性・換金性が低く、来店頻度向上を狙う定番の仕掛けとしてリスクが小さい設計になっており、IPコラボの設計次第でリスクの大きさが変わることを示しています。

京樽の売却は、買収時に期待した仕入れ統合や都市部出店シナジーが必ずしも狙い通りに機能するとは限らないことを示しています。一方で京樽がノルウェー大使館とのタイアップのように、譲渡後も独自の産地訴求企画を継続している点は、出店・閉店・M&Aで事業を譲渡された側にも自律的な集客力が求められることを示しています。

スシローの離職率抑制は、現場の働きやすさへの投資が採用・定着コストの削減に直結することを示しています。人手・賃金が逼迫するなか、賃金以外の労働環境要因が人材定着を左右する構造が改めて浮かび上がっています。はま寿司や壱番屋の深夜料金導入は、人件費上昇分を全体値上げでなく時間帯別に転嫁する手法が外食業界の標準になりつつあることを示しています。インバウンド向けメニュー刷新の動きは、訪日客の回復に合わせて回転寿司が「安価で本格的な日本食体験」の入り口として選ばれやすい業態であることを示しています。

対照的に、個人経営の町場すし店は職人一人ひとりへの依存度が高く、人材が流動化すれば経営が直接揺らぎます。すしを含む複数メニューを扱う和食チェーンが地方都市へ出店余地を見出す動きも、町場店にとっては競合環境の変化として注視すべき点です。

経営の打ち手

松屋PREMIUM・無添蔵・銀座おのでらのK字型の動きは、自店の価格帯を「上か下か」の二択で固定する必要はないことを示しています。既存業態を軸に据えつつ、限定メニューやサブブランドで上位・下位どちらの需要も試すという選択肢が現実的です。

くら寿司のメリハリ型価格戦略は、個店にも応用しやすい発想です。看板メニューは価格を維持しつつ、原価変動が大きい食材だけ価格を見直すという判断は取り入れやすく、自店の商品を「集客役」と「利益役」に分けて棚卸しし、値上げする品目とその理由を顧客に説明できる状態にしておくことが有効です。

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