フクタンの経営ノート
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回転寿司・すし業態の値上げ・値下げと二極化の構造

業態別/すし
最終更新:2026年9月12日 飲食note・フクタンの経営ノート

いま何が起きているか

2026年9月時点で、すし業態は「大手回転寿司の攻勢」と「町場すし店の苦境」の分岐に加え、価格帯そのものが上下二方向に広がる「K字型」の再編が鮮明になっています。松屋フーズが上質路線の新業態「松屋PREMIUM」を銀座に出店し、くら寿司が上位業態「無添蔵」を拡大する一方、高級鮨店「銀座おのでら」が回転寿司や立ち食い業態へ進出しており、大衆店は上へ、高級店は下へと同時に動く構図が広がっています。この流れに加わる形で、「のどぐろ専門 銀座 中俣」など12店舗を展開するザガット(東京・八丁堀)は9月1日、新業態「まぐろと魚 海鮮めし なかまた」を東京・東銀座に開業しました。豊洲からの直接仕入れとマグロ卸「やま幸」との連携という旗艦店のルートを新業態にも採用し、価格帯は1980円から6480円まで幅を持たせています。同様の動きとして、名古屋を中心に寿司店を展開する共和フーズ(愛知・上社)は8月4日、札幌市中央卸売市場の水産仲卸「札幌シーフーズ」とのコラボブランド「新千歳空港 札幌魚河岸57番 いきいき寿司」を「ららぽーと愛知東郷」に出店しました。北海道直送の鮮魚と赤酢のシャリを用い、通常は焼きや干物で食べることが多いにしんやほっけを生で提供するなど、新千歳空港内の人気立ち喰い寿司を愛知で再現しています。同社はコロナ禍に持ち帰り寿司事業を始めた際に北海道の仲買業者と直接取引を開始し、その関係が今回の提携につながりました。帝国データバンクによると9月の飲食料品値上げは4923品目に達し2026年で最多となる一方、くら寿司やイオン、ローソンは値下げや具材を減らした「引き算」商品で対抗しており、業界全体でも値上げと値下げが同時進行するK字型の傾向が顕著です。

回転寿司大手3社の明暗も一段と鮮明です。スシローを運営するF&LCは値上げをしても客数を増やしており強さが際立ちます。かっぱ寿司は90円という低価格戦略で客数を伸ばす一方、くら寿司は相対的に力強さを欠く展開です。くら寿司の2026年10月期第3四半期(累計)決算は、売上高189,684百万円(前年同期比+4.4%)と増収を確保した一方、営業利益は2,845百万円(同-45.2%)、経常利益3,469百万円(同-37.7%)、純利益2,030百万円(同-41.3%)と利益系指標は軒並み大きく落ち込みました。営業利益率は1.5%と前年同期の2.9%から低下し、その要因は売上原価率41.0%(前年同期40.8%、+0.2pt)ではなく、販管費率57.5%(同56.4%、+1.1pt)の上昇にあります。増収による押し上げ効果は+229百万円にとどまり、利益率悪化による押し下げ効果が-2,573百万円と圧倒的に大きく、通期計画(営業利益5,000百万円、前期比-8.4%)に対する進捗率も売上高73.8%に対し営業利益56.9%と見劣りする状況です。期末店舗数は712店、1店舗あたり売上高は266.4百万円でした。フードリンクニュースの1Q決算分析によると、3月決算の外食大手42社のうち約4割にあたる12社が営業赤字に沈む一方、牛丼・回転寿司・焼肉といった主要カテゴリーではゼンショーHDのようなカテゴリートップ企業だけが独走する格差構造が業界横断で確認されています。ゼンショーHDの2027年3月期第1四半期は純利益が前年同期比89.2%増となり、稼ぎ頭が従来の「すき家」から回転すし業態の「はま寿司」へ交代しました。

くら寿司は9月4日から全国店舗で寿司メニューの価格を全面改定しました。20品目を5円値下げして最低価格を110円へ約3年ぶりに引き下げる一方、33品目は120円へ値上げし、創業50周年を見据えた「北海フェア」も同時開始しました。しかし話題化の代表格だった「ちいかわ」との4度目のコラボは、想定外の結末を迎えました。景品「ビッくらポン!」を巡りフリマサイトでの転売急拡大が発端となり、9月5日に1店舗で従業員による横領が判明、9月6日に全施策を中止しました。会社側は「鍵付き倉庫で複数名管理」と説明していましたが、現役従業員の証言によると、湯飲みなど一部景品は鍵のない場所に段ボールで山積み保管されており、取ろうと思えば取れる状態だったことが明らかになっています。さらに9月6日・7日に実施した全品10%割引キャンペーンでも、一部店舗で割引が適用されないケースがSNS上で相次いで報告されました。店員への申告が必要なケースやバーコード提示が必要なケースなど店舗ごとに対応が分かれ、会社側はレシート持参での返金対応を30日まで受け付けると告知しています。話題化施策と価格施策の両方で現場運用のばらつきが露呈した形です。

かっぱ寿司は9月17日から12月9日まで、韓国の人気食品ブランド「辛ラーメン」とのコラボ商品「鯛スープの海鮮 辛ラーメン」シリーズを全店投入します。加えて10月1日からは韓国発キャラクター「MOMOREI」との食べ放題コラボキャンペーンを開始し、小学生以上の食べ放題利用客に描き下ろしイラストの缶バッジをなくなり次第終了で配布します。9月17日から絵本「はらぺこあおむし」モチーフのカプセルトイ企画も全店展開しており、換金性の低い体験型施策と家族・友人の複数人来店を促す特典配布を並行して積み重ねる構図が見えます。はま寿司は9月8日から15日までの8日間限定で「中とろ100円と大漁!旨ねた祭り」を全国展開し、赤身と脂身のバランスが良い「厳選まぐろ中とろ」を税抜100円という低価格で投入しました。旨ねた系メニューやスイーツも同時投入しており、原価の高いネタを短期間・低価格で目玉化して来店頻度を高める、回転寿司業界で定着した販促手法の一例です。

F&LCはテイクアウト子会社「京樽」を9月1日付でSRSホールディングス(和食さと運営)へ37億4500万円で譲渡しました。売却に先立ち65億円の増資を実施し、京樽の債務超過状態を解消した上で手放す手続きを踏んでおり、譲渡後もノルウェー大使館水産部とのタイアップ企画を独自に継続しています。あきんどスシローは職場環境改善で国内グループ正社員の離職率を約10%に抑制しています。

海外展開も具体化しています。スシローを展開するF&LCは米国再進出1号店を2025年10月、ニューヨーク・タイムズスクエア地域に開業予定です。2016年の撤退から約10年ぶりの再挑戦で、マグロ・サーモンは2貫5ドルからと国内の最低価格帯の約7倍の価格設定、チップ不要の方針も打ち出しています。ゼンショーHDの「はま寿司」もベトナム・ホーチミンに1号店を開業し、海外店舗数は2026年6月末で304店舗に達しています。

寿司業態と隣接する動きとして、物語コーポレーションが展開する食べ放題業態「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」は9月23日、堺市西区に新店舗を出店し全国120店舗に到達しました。同ブランドは9月8日から「#ゆずフォト」SNSキャンペーンも開始しています。イオンモール神戸北の食べ放題店「ザ ブッフェ ダイナー」も9月10日から16日まで、全国28店舗で夜もランチ料金で利用できるキャンペーンを実施しており、和食・洋食・中華・寿司を扱うビュッフェ業態でも価格施策による集客テコ入れが広がっています。町の寿司店では倒産が再び増加傾向にあり、職人確保の難しさとインバウンド依存という二重の課題が続いています。

構造・原理

すし業態は「職人の技術依存度」が高いことが二極化の構造的要因です。松屋PREMIUM、無添蔵の拡大、銀座おのでらの大衆業態進出、ザガットの海鮮めし業態進出、共和フーズの北海道直送コラボが示すのは、価格帯・地域による棲み分けそのものが崩れつつあるという構造変化です。ザガットや共和フーズの事例は、高級店・専門店が単に価格を下げるのではなく、旗艦店の仕入れルートや素材の品質をそのまま新業態に転用することで「品質を落とさない低価格化」や「産地直送の差別化」を実現しようとする点が共通しています。

回転寿司大手3社の明暗は、値上げに耐えるブランド力(F&LC)、低価格で客数を稼ぐ戦略(かっぱ寿司)、両者の間で苦戦する立ち位置(くら寿司)という3パターンを同時に示しています。くら寿司の第3四半期決算が示すのは、増収でも販管費率の上昇が利益を大きく削るという構造です。売上原価率はほぼ横ばいだった一方、人件費や地代家賃・広告費などを含む販管費率だけが1.1ポイント上昇しており、原価管理よりも固定費側のコントロールが利益を左右した点が特徴です。加えて、10%オフキャンペーンでの適用漏れや「ちいかわ」コラボ中止といった現場運用・危機対応のコストも、この期間の販管費を押し上げた背景として無視できません。全国一斉の割引施策が店舗ごとのオペレーション差異によって顧客体験の差になりやすいという構造的弱点も、あらためて浮き彫りになりました。

ちいかわコラボの顛末と現場証言のギャップは、話題性の高いIPコラボほど景品の在庫・配布ルールの実効性が問われるという構造を裏付けています。かっぱ寿司の辛ラーメンコラボ、カプセルトイ企画、MOMOREIコラボの缶バッジ配布、はま寿司の中とろ100円フェアのように、換金性の低い商品・体験型施策や目玉ネタの短期投入で話題性と来店頻度向上を狙う設計は、集客・販促におけるリスクの小さい選択肢として対照的です。

京樽の売却は、事前に65億円の増資で債務超過を解消してから手放すという丁寧な手続きを踏んでおり、大手外食グループが不採算・非中核事業を整理しコア業態に経営資源を集中させる動きの一環と位置づけられます。買収時に期待した仕入れ統合や都市部出店シナジーが必ずしも狙い通りに機能するとは限らないことも示しています。一方で譲渡後も独自の産地訴求企画を継続している点は、出店・閉店・M&Aで事業を譲渡された側にも自律的な集客力が求められることを示しています。

経営の打ち手

松屋PREMIUM・無添蔵・銀座おのでら、ザガットの海鮮めし業態、共和フーズの北海道直送コラボのようなK字型の動きは、自店の価格帯を「上か下か」の二択で固定する必要はないことを示しています。既存の看板メニューや仕入れルート、地域の仲卸との関係性を、業態を変えて別の価格帯・商圏に展開するという道筋を持つことは、高級路線・専門店ともに参考にしやすい発想です。

くら寿司の決算が示す教訓は、大手だけの特殊事情ではなく、多店舗展開する飲食店なら誰でも直面しうる販管費管理の問題です。売上が伸びても販管費率が上がれば利益は削られるという関係は店舗数の多寡を問いません。自店の損益計算書を見直す際は、直近の原価率・販管費率を前年同期と比べどちらが動いているか、増収が利益率悪化を吸収できているかを確認する習慣が有効です。また、全店一斉の割引施策を打つ場合は、事前に全店舗でPOS・決済システムの動作確認を徹底し、店舗スタッフへのマニュアル配布とロールプレイ研修を組み合わせる必要があります。SNSで不満が出た際に迅速に公式対応・告知を出す危機管理フローを整えておくことも、顧客信頼を守る一つの選択肢です。

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