いま何が起きているか
2026年10月時点で、外食業界は原価・人件費・エネルギー高騰に加え、コメ価格の再上昇と消費減税議論が重なる「四重苦」に直面しています。米を主原料とするカレー業態は影響を受けやすい構造にあります。
業態の顔であるCoCo壱番屋を巡っては、親会社ハウス食品グループが売却を検討していると報じられ、非公開化を含む複数の選択肢が浮上しています。壱番屋の2026年3〜8月期決算では、営業利益・純利益ともに会社計画を下回りました。客数は第1四半期0.5%増から第2四半期0.5%減に転じ、上期は前年同期並みにとどまっています。平均客単価は2022年3月期の983円から上昇を続け、2026年3〜8月期には1200円台に達しましたが、既存店売上高の伸び率は想定の2.9%増に対し実績2.4%増と未達でした。2026年2月期の営業利益率も前期の8.1%から7.2%へ低下しています。対応策として9月から深夜時間帯の料金を引き上げる「深夜料金」(22時〜翌5時に7%加算)を導入し、トッピング44種のうち12種を平均17%値上げしましたが、通期計画(売上高726億円、営業利益50億円)は据え置かれ、値上げ一辺倒の戦略に陰りが見えています。すき家・松屋に続く動きで、はま寿司も2026年3月から同様導入を予定しています。10月1日からはドラマ「VIVANT」とのコラボ企画も実施し、値上げと集客策を同時に打ち出しています。
商品開発面では、すき家が9月29日より期間限定「ビーフカレー」を投入し、松屋はグループの「マイカリー食堂」の人気メニューを再構築した「ネオカシミールカレー」(680円)を10月6日より発売しました。とんかつチェーン「かつや」も10月9日より高単価メニュー「海老トリプル丼」(979円)を投入しています。
10月下旬には業態を超えて「増量合戦」も広がりました。松のやは10月21日から「倍量フェア」でロースかつ定食などのフライ類を価格据え置きで最大2倍に増量し、ラーメン魁力屋は焼きめし定食の焼きめしを無料で1.5倍に増量、カフェ・ベローチェは15時以降の対象パスタをプラス100円で2倍盛りにできるサービスを始めました。値上げ疲れが見える中で「お得感」を演出する販促が各社で同時多発的に打ち出されています。
地域イベントも活況です。東京・下北沢では135店舗が参加する「下北沢カレーフェスティバル2026」が10月8日〜25日に開催され、例年10万人以上が訪れる規模です。愛知県稲沢市でも11月15日に「稲沢カレーフェスティバル2026」が開催予定で、即席カレー発祥企業の本社機能がある縁から、和食・イタリアン・カフェ・居酒屋など28店舗がワンコイン(500円)でご当地カレーを提供します。鳥貴族も11月1日から「アパ社長カレー」とのコラボメニュー2品を数量限定(計20万食)で発売するなど、カレーを軸にした異業種・地域コラボが相次いでいます。
一方、インド・ネパール料理店を中心とした外国人経営者を取り巻く環境は急速に厳しくなっています。2025年10月、在留資格「経営・管理」の資本金等の要件が500万円以上から3000万円以上へ大幅に引き上げられ、全国に約4000〜5000店あるとされるインド・ネパール料理店の多くが事業継続の資金面で壁に直面しています。2026年4月からは外食業「特定技能1号」の新規受け入れを制限する措置も始まる見通しで、資金要件と人手確保の両面で同時に課題を抱える構造になっています。
個人経営の焼肉店では、店主の健康問題で営業継続が困難になった事例も出ています。北九州市の焼肉店はカレーコンテスト3年連続優勝の看板メニューを持ちますが、店主が指定難病と診断され営業時間短縮を迫られ、看板の味をレトルト化して店舗外収益を確保する再建を模索しています。
出店は観光地一等地と郊外低コストの二極化が続き、人手不足も深刻です。2026年1〜6月の外食業倒産件数は473件と過去最多を更新しています。2026年8月6日には政府が食料品消費税を来年4月から2年間8%から1%へ引き下げる方針を閣議決定しました。外食は10%据え置きでテイクアウトのみ1%が適用される見通しで、税率差は2%から9%へ拡大します。
構造・原理
カレーの原価は米・肉・スパイスなど複数品目で構成され、値動きの方向がバラバラになりやすい特徴があります。米を大量に使うカレー業態は、米価格上昇(いわゆる令和の米騒動)の影響を相対的に強く受けやすい構造にあります。値上げ・原価は品目単位で追う視点が欠かせません。
市場構造としては、専門店が看板メニュー一本で戦う道と、大手チェーンがカレーを大規模サブメニュー化する道が併存します。壱番屋の決算が示すのは、客単価上昇だけで利益を押し上げる戦略には限界があるという構造的な事実です。客単価が983円から1200円台まで上がる過程で客数の伸び悩みが顕著になり、営業利益率もむしろ低下しています。価格転嫁が一定水準を超えると客離れとなって跳ね返るという、業界全体が直面しつつある課題を象徴する事例です。大手・チェーン動向や出店・閉店・M&Aの推移が業界全体の空気を左右します。
深夜料金の広がりは、時間帯別の原価構造が顕在化した動きです。すき家・松屋・壱番屋・はま寿司という主要プレイヤーが同様の導入に動いていますが、壱番屋の事例が示すように、深夜料金だけで減益構造を完全に打ち消せるとは限らず、他施策との組み合わせが必要になります。同時期に松のや・魁力屋・ベローチェ・ピザハットなどが一斉に増量・割引キャンペーンを打ち出したことは、値上げ一辺倒から「お得感」を演出する販促への揺り戻しが業界横断で起きていることを示しています。
外国人経営者が支えるインド・ネパール料理店にとっては、人手不足とは別次元の「資格制度」そのものが経営継続の前提条件になりました。在留資格「経営・管理」の資本金要件が6倍に引き上げられたことは、小規模な個人経営店にとって事実上の参入・継続障壁となり、特定技能1号の新規受け入れ制限と重なることで影響が大きくなる構造です。人手・賃金と特定技能制度(外食業)の動向は原価以上に経営を左右する要因になりつつあります。
地域ぐるみのカレーイベントや異業種コラボの相次ぐ展開は、カレーが業態の垣根を超えて「集客テーマ」として使いやすい商品特性を持つことの表れでもあります。個人店にとっては単独の集客力に頼らず、面的なイベントや知名度ある他ブランドとの協業で話題を作る道が開けています。
外食・テイクアウト間の税率差9%も「どこで食べるか」という顧客行動に影響を与える構造変化です。カレーは元々テイクアウトとの相性が良く、店内飲食の体験価値とテイクアウトの価格優位性という綱引きが今後強まる可能性があります。
経営の打ち手
原価管理では米の盛り量や皿数を見直し、米以外の原価(スパイス・肉類)とのバランスを再計算したうえで、値上げ幅を一度に決めず段階的に調整する方法が現実的です。壱番屋の事例が示すように、客単価を上げ続けるだけでは客数減という反動が出かねないため、値上げと客数維持策はセットで検討する必要があります。値上げ・原価も参照してください。
値上げ疲れへの対抗策として、松のや・魁力屋・ベローチェなどが行った「価格据え置きでの増量」「少額追加でのボリュームアップ」は中小店舗でも再現しやすい手法です。主役食材の増量や大盛りオプション化は、値引きより原価コントロールしやすく、常連客の満足度維持にもつながります。集客・販促も参照してください。













