いま何が起きているか
ホテルという業態は、宿泊収益だけでなく併設レストラン・カフェ・ビュッフェの企画力が集客の柱になりつつあります。2026年7月時点で目立つのは、大きく5つの流れです。
- 訪日客向けの高単価インバウンド特化業態の拡大
- 老舗リゾート・老舗ホテルの大型改装や運営再構築
- ホテル併設施設での地域性を反映した商品開発
- 電話予約や接客のAI自動化、業務用冷凍食品活用によるインバウンド対応・人手不足対応の強化
- 商業施設やホテルと食材メーカーが連携し、施設内の複数店舗が統一テーマの限定メニューを提供する「面」型フェア企画の広がり
ホリイフードサービスの神戸牛ステーキ業態「エンペラーステーキ」は、新宿歌舞伎町店で月商2000万円超・利益率約5割を確立し、2026年7月に大阪なんば・渋谷センター街へ出店、今期中に5店舗体制を目指す計画です。一方で、いわきの「スパリゾートハワイアンズ」は開業60周年を機に総工費110億円超で2028年3月まで段階的リニューアルを行うなど、既存施設の再投資も同時に進んでいます。宇都宮の「ホテルニューイタヤ」も、前年度の客室175室改装・ビュッフェ刷新に続き、2026年7月にラウンジ・ロビー・客室24室の改装を実施しました。ホテル正面にLRTの新停留所が整備される見通しで、地域インフラの変化を見据えた段階的な館内更新が進んでいます。
開業から一定期間が経過した施設が世界観を深めるためにメニューを刷新する動きも見られます。東京ディズニーリゾート至近の「1955 東京ベイ by 星野リゾート」は開業2周年を機に、23時まで営業するホテル内カフェテリアのレギュラーメニューを刷新し、深夜帰りの宿泊客にも「オールドアメリカン」な世界観を食事で体験できるようにしました。テーマパーク需要圏では、宿泊だけでなく深夜帯の食事提供そのものがホテル選びの決め手になり得ることを示す事例です。
また、軽井沢プリンスホテルとプリンスショッピングプラザ、食材メーカーのホクトが共催する「きのこメニューフェア2026」では、施設内24店舗が連携し、きのこを使った限定オリジナルメニュー28品を一斉提供しています。夏場の美容・健康ニーズを意識した企画で、ホテル・商業施設と食品メーカーが手を組み「面」で訴求する形態が特徴です。
構造・原理
ホテルと飲食が結びつく背景には、宿泊需要と食体験需要が一体で評価される構造があります。訪日ラボが2026年7月前半に公開した口コミ調査(外国語口コミ5,370件超)では、飲食店ランキングとホテル・旅館ランキングが並んで示され、訪日客が「食」と「宿」を分けずに選んでいる実態がうかがえます。
この構造の中で、ホテル側の飲食戦略は二極化しています。ひとつは高単価・単一業態への絞り込みで訪日客の特別な体験ニーズを取り込む方向、もうひとつは季節限定メニューやビュッフェ企画、周年を機にしたレギュラーメニューの刷新で宿泊客・地元客双方の来店動機をつくる方向です。星野リゾート「星のや富士」の季節限定コース刷新や、「1955 東京ベイ」の開業2周年メニュー刷新は後者の典型例です。「きのこメニューフェア2026」のように、単店ではなく施設全体・複数店舗が統一テーマで連携する企画も、この後者の延長線上にある動きといえます。
この二極化は、食品メーカー側の商品戦略にも表れています。味の素冷凍食品は2026年秋、あっさり系の定番「黄金炒飯」と高単価な「頂肉ブラックアンガス牛100%ハンバーグ」を同時投入する計画で、消費者の節約志向と特別な体験志向が併存する「メリハリ消費」を業界全体が意識し始めています。業務用ではホテル向け中心に人手不足対応の効率性・簡便性を訴求する新商品を投入しており、宿泊業と外食業に共通する人手不足課題への対応策として広がりつつあります。
また、ホテル併設の飲食施設は運営会社の経営判断ひとつで存続が左右されやすい点も特徴です。角館の「樅の木亭」は前運営会社の撤退で半年休業した後、地元事業者が引き継いで和食中心のメニューに切り替えて再開しました。観光地のホテルレストランは、宿泊施設本体の経営方針変更の影響を直接受けやすい業態だといえます。
複合施設開発の動きも見逃せません。名古屋・中川運河では、ホテルとベーカリー『PAUL』、イタリアン、スポーツコートを組み合わせた複合施設「NAKAGAWA CANAL DOORS」が2026年6月に開業し、運河沿いエリアを人流拠点化する狙いがあります。こうした出店・閉店・M&Aの動きは、近隣の既存店の商圏構造を変える可能性があります。
もう一つの構造変化として、宿泊客対応にAIを組み込む動きが進んでいます。アイエロジャパンとTableCheckの提携により、ホテル宿泊客が電話一本で50以上の言語に対応したAI予約サービスを利用できる仕組みが始まりました。人手不足とインバウンド需要増加が同時進行するなか、電話予約や多言語対応の自動化、そして業務用冷凍食品による調理工程の簡便化は、ホテル内レストランに限らず飲食店全体の人手・賃金課題への対応策として広がりつつあります。
経営の打ち手
ホテル内外の飲食店経営者が参考にできる打ち手は、以下のように整理できます。
- 訪日客の高い購買力を取り込むため、既存メニューの一部を高単価な「体験型」商品として切り出す