いま何が起きているか
2026年7月時点で、大手チェーンから個人店、さらに異業種までもが新業態の立ち上げを続けています。すかいらーくHDは中華食べ放題を改称しペット同伴可店舗を出店、くら寿司は高価格帯回転寿司「無添蔵」を6店舗まで拡大しています。ホットランドHD傘下の「銀だこ点心酒場」、ロイヤルHDのおにぎり業態「おにどん」、アークランドサービスHD子会社の「タレカツ食堂 たれとん」(7月時点で4店舗、3年で30店舗目標)など、既存の看板メニューや技術を切り出す動きが続いています。
海外ブランドの導入・輸出も双方向で目立ちます。JR九州ファーストフーズはドイツ発デリカテッセン「Feinkost Kafer」とのFC契約で福岡・天神に日本初のアルプス料理店を出店し、ニューヨーク発の高級焼肉「YAKINIKU 37west NY」は新橋に上陸しました。逆方向では、大阪王将が三菱食品との合弁で米ロサンゼルスに餃子を主役にした呑み屋業態「OSAKA OHSHO GYOZA & TAPAS」を旗艦出店し、ぼてぢゅうグループは創業80周年・国内100店舗達成を機にフィリピンで炉端焼きと鉄板焼きを融合した新業態「TEPPEN OF TOKYO」を始動するなど、国内で育てたブランドを海外で新業態化する動きも進んでいます。
異業種からの外食参入も加速しています。業務スーパーを展開する神戸物産は韓国居酒屋「韓国酒場 ハンサン」を神戸に出店し、将来的にFC展開による全国拡大も視野に入れています。食品スーパー「ロピア」系列のeatopiaは、横浜の焼肉店「ギュウトピア」を夏季限定で「万福屋」に業態転換し、大人3,980円のうなぎ食べ放題を展開しています。江崎グリコは大阪発の健康社食デリバリー「SUNAOデリバリー」を首都圏へ拡大し、ランチ高騰と店舗不足を追い風に法人契約を広げています。関西ではハンコ店がどら焼き屋を始めるなど、中小事業者による本業以外の「二刀流・三刀流」経営も広がっています。
販路面では、松屋フーズが越境ECモール「AliExpress」に公式出店し牛めしなど冷凍・惣菜商品の販売を開始。ローソンは2025年度のデリバリー売上高が前年比約4割増となり、猛暑期にはアイスが約5割増・冷たい麺が約7割増と伸長、全国約8000店で展開し、店内厨房を使うゴーストレストランも約1600店に拡大しています。8月には新配送サービス「ロケットナウ」を神奈川で先行導入します。
個人店・地方発の動きも続きます。宇都宮発の餃子居酒屋「芭莉龍」の東京2号店、新潟の居酒屋運営会社による焼肉業態への転換、静岡・三島「伊豆・村の駅」の段階的リニューアルなどが並行しています。
構造・原理:なぜ新業態が量産されるか
新業態の量産には共通の構造があります。
- 既存の強みに新変数を一つ加える:銀だこ「点心酒場」やコメダ「おかげ庵」のように、既存資産一つに新変数を一つ足す設計が検証コストを抑える基本の型です。
- 看板メニューの独立化:タレカツ丼専門化やロイヤル「おにどん」のように、自店の隠れた人気商品が業態化の種になり得ます。
- 海外ブランドの双方向導入:Feinkost Kaferのように海外ブランドをFC導入する動きと、大阪王将やぼてぢゅうのように国内ブランドを海外で新業態として展開する動きが同時に進んでいます。後者は単店舗の輸出型ではなく、現地企業との合弁・パートナーシップで一気に旗艦店を立ち上げる型が主流になりつつあります。
- 業態そのものの一時的な転換:ロピア系eatopiaが焼肉店を夏季限定でうなぎ食べ放題に切り替えたように、既存の設備・立地をそのまま季節限定業態へ転用する手法は、専業の飲食店にとって価格競争力の面で脅威にもなり得ます。
- 価格帯の分散(メリハリ消費対応):くら寿司「無添蔵」やYAKINIKU 37west NYのような高付加価値ラインは、値上げ・原価圧力の中で客単価の異なる層を同時に取り込む戦略です。
- 異業種からの原価力を武器にした参入:神戸物産「ハンサン」やロピア系のうなぎ食べ放題は、スーパー業態の調達力・製造拠点・物流網をそのまま外食の原価構造に転用する事例です。原価率で勝負しづらい単独店舗にとっては競争環境の変化を意味し、接客や空間づくりなど大手が真似しにくい強みへの軸足移動が対抗策になります。
- 販路そのものの新業態化:松屋フーズの越境EC出店やローソンのデリバリー・ゴーストレストラン強化は、店舗を増やさずに売上を伸ばす「販路の新業態化」といえます。江崎グリコの法人向け社食デリバリーも同様に、店舗網に頼らない新しい提供形態です。人手・賃金が厳しい中、注目される手法です。
- 本業以外への「二刀流」経営:脱ハンコで売上が3割減した京都のハンコ店がどら焼き屋を始めたように、本業の需要縮小に備えて隣接事業を持つ動きは、大手だけでなく中小の個人店にも広がっています。必ずしも高い利益率を狙うのではなく、収益源の分散や地域とのつながり維持を目的とする判断もあり得ます。
経営の打ち手
- 自店が持つ「技術・食材ルート・立地・ブランド認知」のうち他業態に転用できるものを棚卸しする。まかない料理や限定メニューが独立業態の種になり得ます。
- 新業態は既存店とカニバリゼーションを起こさない設計か確認する。単品特化・別立地・別客層など、既存店と客層が被らない切り出し方が転用の再現性を高めます。