いま何が起きているか
2026年9月時点でも、大手チェーンから個人店、異業種までが新業態の立ち上げを続けています。大阪では株式会社YAPが「Wellness PUB LANIAI」を開業し、料理・ドリンクだけでなく店内の空気・水・光まで設計対象に含める新しいウェルネス業態を打ち出しました。
本業の周辺事業への進出も続いています。外食大手きちりがふるさと納税運営支援の子会社を新設し、同時期にDDホールディングスも同分野へ参入しました。福井のラーメン店「なん・なん亭」は焼肉業態「なん・なん別邸」に参入し、串カツ田中運営のユニシアホールディングスは開業約20年を経て看板ブランドの大幅リブランディングを発表しました。
焼肉大手のステーキ・テイクアウト市場参入も広がっています。叙々苑は「叙々苑ステーキJJ」に続き、テイクアウト専門業態「叙々苑 Kitchen」の関西初出店(大阪扇町、10月25日)を発表。焼肉弁当中心の商品構成で、高級ブランドの世界観を手軽な価格帯・テイクアウト形態に落とし込む狙いがうかがえます。トラジ「牛印」も多店舗化局面に入っています。松屋フーズは百貨店に高級業態「松屋PREMIUM」を出店し、神戸牛牛めしを通常店舗の約3倍にあたる1390円で提供しています。
既存ノウハウを同時多店舗で展開する動きも目立ちます。焼肉食べ放題運営のDICは大阪・梅田と天王寺で新ブランド4店舗を4日間で連続開業。全コース100品以上を2,880円〜の価格帯で提供し、繁華街立地に集中出店してシェア確保を狙う戦略です。奈良では「炎家」が商業施設屋上でのビアガーデン形式の期間限定プロデュース事業を展開し、既存ブランド力を夏季限定の収益機会に転用しています。老舗餃子専門店「点天」も、看板商品を軸にバル業態「点天バル」を梅田の商業施設に出店し、専門店ブランドが業態の幅を広げる動きを見せています。
地域密着の中小企業にも同様の動きが見られます。赤羽の「佐野商店」は既存2業態(坪月商45万円・54万円の実績)に続く3店舗目として立ち飲み業態「スタンド ミハラシマート」を開業し、開業3か月で坪月商47万円を記録。大阪の「焼鳥しふく」(運営J.E.F)は複数店舗で月商1500万円超を記録し、飲食未経験の経営者が短期間で高収益店舗を複数育てた急成長例として注目されています。
本業の強みを別業態に転用する動きも目立ちます。「のどぐろ専門 銀座 中俣」を運営するザガットは、豊洲直送とマグロ卸連携という旗艦店の仕入れルートをそのまま新業態「まぐろと魚 海鮮めし なかまた」に転用し、1980円からの海鮮めしを開業しました。福井市の給食事業者「さくら」は来春から高齢者施設・病院向けの調理〜食器回収一貫代行サービスを開始予定で、中食側からのBtoB参入が続いています。
既存ブランドの人気商品を編集し直し、小型・テイクアウト特化の新業態に集約する動きも現れました。福岡のpeace putは、傘下の「AMAM DACOTAN」と「I'm donut?」の人気商品を厳選し、テイクアウト専門スタンド「dacō?」を開業。営業11〜24時で夜間需要も取り込む構成です。
海外の人気ブランドが時間差で日本市場に流入する動きも続いています。ニューヨーク発「マグノリアベーカリー」が表参道にアジア初出店し、カップケーキ430円〜など約150種類のスイーツを展開。既に国内で広がるカップケーキブームをさらに加速させる可能性があります。
人手を介さない業態の拡大も進んでいます。無人カフェ「セルフカフェ」は全国60店舗・月間利用者9万人まで拡大し、世田谷区に新規出店。ドリンク1杯で時間無制限、電源・Wi-Fi完備の自習・作業空間として、人手不足やコスト対応の一つの解として位置づけられます。
低コストで開業できる仕組みの整備も進んでいます。営業許可取得済みのレンタルキッチン「リノスペkitchen」が月間24時間からのゴーストレストラン向け定期予約プランの受付を開始しました。
社食・福利厚生の周辺市場も急速に多様化しています。設置型健康社食「OFFICE DE YASAI」を展開するKOMPEITOが2026年9月11日に東証グロースへ上場し、法人向け食インフラ事業が資本市場からも評価される段階に入りました。厨房不要の社食デリバリーも開始3カ月で受注拡大するなど、初期投資を抑えた社食モデルが広がっています。個人店側でも横浜のコーヒースタンドが法人向け配達サービスを開始するなど、来店客依存からの脱却が進んでいます。
一方で家庭側では、米価高騰を背景に6割が内食回帰を実感しているという調査もあり、節約と「おいしさ」を両立するメリハリ消費が進んでいます。デリバリー市場全体では「menu」終了・Wolt撤退で撤退事業者が8社に達し、Uber Eats・出前館・ロケットナウの3強体制が確定しました。フードデリバリー業界再編は既存チャネル依存リスクとあわせて注視が必要です。総務省家計調査では世帯消費全体が前年比3.6%減となる一方、外食支出は6.6%増、シニア層は8.9%増と逆行して伸びています。外食の中食化・店舗外収益化の動きは水産・給食・社食・法人配達といった非外食側からの参入も含め裾野が広がっています。
構造・原理:新業態は複数の型に分かれる
- 技術横展開型:既存の調理技術・ブランド力を維持し提供形式だけ変えるタイプ。点天のバル業態出店もこの型に近い。
- 業態転換型/ブランドリフレッシュ型:なん・なん亭の焼肉参入や串カツ田中の大幅リブランディングのように、看板の刷新や新業態立ち上げで次の成長局面を目指すタイプ(業態転換・多業態化)。
- 隣接高単価業態進出型:叙々苑・トラジのステーキ参入や松屋フーズの百貨店出店のように、既存の看板業態と客層が近く成長余地の大きい隣接ジャンル・立地へ横展開するタイプ。
- 高級専門店の廉価横展開型:ザガットの「まぐろと魚 海鮮めし なかまた」や叙々苑Kitchenのテイクアウト業態のように、旗艦店の品質・世界観はそのままに、より手軽な価格帯・形態へ落とし込むタイプ。
- 地域密着複数業態展開型:佐野商店のように、同一商圏内で坪月商の高い複数業態を段階的に育て、既存店の強みと接客ノウハウを新店にも転用するタイプ。
- 同時多店舗展開型:DICの焼肉食べ放題4店舗連続開業のように、既存ノウハウを一気に複数店舗へ横展開し、繁華街立地でシェアを短期間に確保するタイプ。
- 期間限定プロデュース型:炎家の商業施設屋上ビアガーデンのように、既存ブランド力を活かして期間限定・別チャネルの収益機会を創出するタイプ。
- ブランド資産集約型(編集型テイクアウト):「dacō?」のように、複数の自社ブランドの人気商品を厳選して1店舗に集約し、テイクアウト特化の小型業態として展開するタイプ。
- 本業転用型(中食・BtoB参入):給食事業者「さくら」の一貫代行サービスのように、原料・技術・現場業務の強みをそのまま別業態・別チャネルに転用するタイプ。
- 周辺BtoB事業進出型:きちり・DDホールディングスのふるさと納税運営支援のように、本業の店舗運営や食材調達ノウハウを非店舗型のBtoB事業に転用するタイプ。
- 社食・福利厚生チャネルの多様化型:KOMPEITOの上場や厨房不要の社食デリバリーのように、企業の福利厚生投資拡大を受けて参入障壁が下がり、資本市場からも注目されるタイプ。
- 法人向け販路開拓型:コーヒースタンドの法人配達サービスのように、個人店が来店客依存から一歩踏み出し、会議・イベント需要を取り込む販路を新設するタイプ。
- 低コスト参入インフラ活用型:月単位・時間単位で借りられる営業許可済みレンタルキッチンのように、初期投資を抑えてゴーストレストランから始められる基盤が多様化しているタイプ。
- 無人・省人化業態型:セルフカフェのように、接客や滞在管理を人手に頼らず、ドリンク1杯+作業空間という価値提供に絞って全国展開するタイプ。人手不足や賃料コストへの対応策としての側面がある。
- 海外ブランド輸入型:マグノリアベーカリーのように、映画・ドラマ等で火がついた海外トレンドが時間差で日本市場に流入し、既存の国内ブームをさらに加速させるタイプ。
- 環境設計型(ウェルネス業態):「Wellness PUB LANIAI」のように、メニューだけでなく空気・水・光といった空間要素まで健康志向の設計対象に含めるタイプ。
- 価格帯再編型(K字型)と内食回帰:大衆業態が上位業態へ、高級店が回転寿司・テイクアウトへ進出する一方、米価高騰を背景に家庭では内食回帰が進むという逆方向の動きも同時に起きています。単価回復よりも客層・来店機会の掘り起こしが鍵になる可能性があります。
経営の打ち手
- 自店の看板業態に隣接し単価やターゲットが異なる周辺ジャンルに成長余地がないか棚卸しする。松屋PREMIUMのように既存ブランドの一部を高価格帯・高感度立地へ切り出す道もあれば、叙々苑Kitchenのように高級ブランドをテイクアウト形態で手軽な価格帯に落とし込む道もある。
- 同一商圏で複数業態を展開できないか検討する。佐野商店のように、既存店で培った接客・仕入れの強みを活かして2店舗目・3店舗目を段階的に育てる方法は、単発の繁盛店で終わらせないための選択肢になる。