いま何が起きているか
2026年7月時点で、和食業態のニュースは大きく5つの潮流に分かれます。土用の丑の日を軸とした季節商戦、地域食材・郷土料理を軸にした地域連携、看板メニューの独立業態化・見直し、大手による値上げと原価改善・M&A、そして出店競争とオペレーション効率化です。
うなぎを扱う専門店だけでなく、松屋・大戸屋・なか卯・かつや・てんやといった業態の異なるチェーンまでが土用の丑の日にうなぎ商品を投入しました。物語コーポレーションの「ゆず庵」も上位コースで黒毛牛しゃぶしゃぶ・上寿司・上天麩羅を食べ放題にしたうえで、期間限定の牛骨旨辛麻辣湯だしやトロ・鰻を組み込んだ夏季限定メニューを投入しています(2026年6月9日開始)。一方、シラスウナギの豊漁を受けてうなぎの卸売価格は2026年6月時点で前年比27%下落し、量販店は値下げ攻勢をかける一方、専門店は人件費・コメ価格・容器代の上昇でコスト増に直面しています。うなぎ専門店「鰻の成瀬」は電話でのテイクアウト注文をAIが自動受付する実証実験を開始しており、原価上昇に加えて人手不足への対応も専門店の課題として並行して進んでいます(2026年7月28日)。
看板メニューの扱い方も分岐しています。かつやを展開するアークランドサービスHDの子会社は限定メニュー「タレカツ丼」を専門業態「タレカツ食堂 たれとん」として切り出し4店舗まで拡大しました。大戸屋は「愛情めし」開発プロジェクトに加え、鶏むね肉を使った定食や復活メニューを全店で定番化し、同日に一部値上げも実施しています(2026年7月27日)。同社を傘下に持つコロワイドグループは愛知県岡崎市の県道沿いに新店をオープンするなど、定食・和食ジャンルでの郊外出店も継続しています(2026年5月28日オープン、7月28日報道)。松屋フーズの「松のや」は160gの厚切りリブロースかつを使った期間限定「タレかつ丼」(1090円)を投入し、値上げ後の市場で「厚み」という視覚的価値により客単価上昇への納得感を作る動きも見られます(2026年7月29日発売)。
地域連携では、岐阜県飛騨市と和食麺処サガミが3年目となるご当地コラボ企画を実施し、飛騨牛など特産食材を使ったメニュー提供に加え、幻の在来種「万波そば」の限定提供や企業による農作業支援など、単なる食材調達から在来種保全へと連携の質を発展させています(2026年7月28日)。長崎市が主導するご当地グルメ「ながさき刺しゃぶ」も、行政と市内5事業者が連携して夏限定の冷たいだしメニューを追加し、通年での話題継続を狙う動きを見せています(2026年7月28日報道)。
大手の動きとしては、モスフードサービスが和食「えん」運営のビー・ワイ・オーを112億円で完全子会社化するなど大手・チェーンが和食領域に資本を投じる動きに加え、ステーキ店チェーンのブロンコビリーが2度の値上げとサラダバー・ドリンクバー刷新、子会社化した食肉加工会社の寄与により2026年12月期通期純利益予想を32%増へ上方修正しました(2026年7月27日)。牛カツ「京都勝牛」は京都駅八条口直結の商業施設にカウンター14席の新店を出店し、観光客・出張客の待ち時間需要を取り込む立地戦略を打ち出しています(2026年7月31日オープン予定)。
構造・原理
和食業態の商戦は「季節性」と「地域性」という2つの軸に強く依存する構造を持っています。土用の丑の日のようにうなぎ需要が一時的に跳ね上がる日は、専門店以外のチェーンにも参戦の余地が生まれ、看板メニューと季節食材を組み合わせた合い盛り商品で客単価を引き上げる商品開発競争が起きやすくなります。松のやの厚切りかつ丼のように「量より見た目のインパクト」で単価上昇の納得感を作る手法も、この構造の延長線上にあります。
うなぎ商戦は卸値下落という珍しい条件下で起きていますが、原価だけを見ても経営全体の負担が軽くなるわけではありません。量販店は薄利多売で目玉商品として値下げを打ち出せますが、専門店は仕入れ量が少なく固定費比率も高いため、同じ食材価格の変動でも受ける影響が大きく異なります。加えて専門店は人手不足の影響も強く受けやすく、鰻の成瀬のAI電話注文実証実験のように、原価対応と並行して人手・賃金対応をオペレーション面で進める動きも出ています。
地域食材・郷土料理フェアは単店の集客力に限界がある地方観光地や商店街で、生産者・自治体・観光協会が一体となって話題を作る集客・販促手法として定着しています。飛騨市×サガミのように単年の物産フェアから複数年の関係構築、さらに生産地保全支援へと発展する事例は、地域連携が「調達」から「応援消費の物語」へ深化する段階に入っていることを示します。長崎の「ながさき刺しゃぶ」のように行政と複数事業者が連携し、季節限定メニューを追加して通年で話題を絶やさない仕組みを作る手法も、単独店舗では届きにくい発信力を補う手段として広がっています。
看板メニューの扱いには複数の型が見えます。ひとつは「価格は固定、話題は差し替え」という設計で、ゆず庵のように既存コース価格帯を保ったまま上位コースに期間限定食材を組み込む型です。もうひとつは限定メニューを専門業態として切り出すタレカツ食堂のように、看板の一部を独立させて新たな収益源に育てる型です。出店戦略の面では、大戸屋の郊外幹線道路沿い出店と京都勝牛の駅直結カウンター出店のように、商圏特性に応じて立地とレイアウトを使い分ける動きも見られます。
ブロンコビリーの増益は、値上げ・体験価値向上・原材料調達力強化を組み合わせることで、値上げ後も既存店売上高が前年を上回るという結果を出した点が注目されます。値上げが客離れを招くとは限らないことを示す事例として、価格改定の妥当性を判断する材料になります。
経営の打ち手
季節商戦に参戦する場合、専門店でなくても看板メニューと季節食材を組み合わせた限定商品で話題性を作る道があります。松のやのように主力食材を厚切りにする、盛り付けを変えるなど「量より見た目のインパクト」で単価アップを狙う道もあり、期間限定メニューとして試験投入し反応を見てから定番化する判断も一案です。
値上げを行う際は、大戸屋のように新メニュー投入や既存人気メニューの復活と同時に発表し、値上げ単独の印象を和らげる工夫が有効です。ブロンコビリーの事例が示すように、値上げと同時に体験価値の向上を打ち出す、原材料調達力を強化するためにM&Aや仕入れ先との連携を検討するといった選択肢も、規模に応じて参考にできます。