いま何が起きているか
2026年9月時点、和食業態は「客数が伸びなくても客単価と出店で売上を保つ」構造が定着しつつあります。日本フードサービス協会の集計では6月の外食売上高は3.3%増でも客数は0.8%増にとどまり、客単価上昇(2.4%増)と店舗数増加が売上を支えています。丸亀製麺(既存店7.0%減、客数9.9%減)や王将フードサービス(6.3%減)が苦戦する一方、大戸屋は8月の既存店売上高が前年同月比10.8%増(客数6.0%増、客単価4.5%増)となり、58カ月連続で前年実績を上回りました。客数・客単価の両方が同時に伸びている点が特徴で、値上げだけに頼らない来店動機の増加が続いています。
決算面では「増収減益」が目立ちます。浜木綿は2026年7月期決算で客単価上昇により売上高が過去最高を記録したものの、減損損失の拡大が響き純利益は減益となりました。さらに本店休業の影響で今期は減収を見込んでいます。サガミホールディングスも2026年4〜6月期に売上高5%増でも営業利益13%減・純利益21%減となり、通期予想も純利益26%減を据え置いています。梅の花は2026年4月期通期で増収率+1.3%に対し営業利益+17.8%となりましたが利益率改善が主因で、経常利益は-5.1%の減益でした。業態内の格差も広がり、高級レストラン「うかい」は四半期経常損益が赤字に転落した一方、グローバルダイニングの和食「権八」は中間期営業利益231.1%増と対照的な結果になりました。京樽はスシロー(F&LC)が立て直した後、SRSホールディングスへ再売却され、5年で運営元が入れ替わっています。
多店舗展開・エリア拡大に加え、既存の高級ブランドが手頃な価格帯の新業態へ横展開する動きも見られます。「のどぐろ専門 銀座 中俣」など12店舗を展開するザガット(東京・八丁堀)は9月1日、東銀座に新業態「まぐろと魚 海鮮めし なかまた」を開業しました。豊洲からの直接仕入れとマグロ卸「やま幸」との連携という旗艦店のルートをそのまま新業態に採用し、これまで個室割烹で提供していた高級魚を1980円〜6480円の海鮮めしとして手軽に楽しめる形にしています。「月島もんじゃ くうや」は10月3日にラゾーナ川崎プラザへ出店予定で、豊洲市場仕入れの鮮魚とライブ感を商業施設へ持ち込みます。「俺の」シリーズは9月7日、大阪・北新地に「俺の割烹」の12号店を関西初出店し、黒門市場からの鮮魚仕入れや地域食材を採用して現地化を図りました。二子玉川ライズS.C.でも9月11日、黒毛和牛ひつまぶし専門店「和牛ひつまぶし 一膳」が出店し、A4クラス以上の博多和牛や築地の老舗「伏高」の出汁を用いた専門特化型メニューで商業施設内の飲食フロア強化に加わっています。
季節商戦・集客施策も多様化しています。SRSホールディングス運営の「和食さと」(国内202店舗)は9月10日から2週連続で秋フェア・なごやめしフェア対象品を220円引きにするキャンペーンを実施中です。和食ファミレス「夢庵」は9月10日〜30日、気象庁発表の東京地方の降水確率が朝5時時点で50%以上となった日限定で店内飲食8%オフクーポンを配信する天候連動施策を展開し、客足が鈍りがちな雨天日の来店喚起を狙っています。しゃぶしゃぶ温野菜も9月14日〜30日、食べ放題コースを平日20%オフ・休日10%オフとする曜日別の割引キャンペーンを行っています。
原価面ではコメ相場が急速に軟化しています。2026年産新米の概算金はJAグループの提示で16道県において前年比2〜4割下落し、栃木のコシヒカリは45%減、岩手のひとめぼれも39%減となりました。これを追う形で農林水産省の調査でも、9月6日までの1週間で全国スーパー約1000店舗のコメ平均販売価格が5kgあたり3003円(前週比109円安)となり、2024年9月以来2年ぶりに3100円を下回りました。銘柄米は3023円(106円安)、ブレンド米は2900円(123円安)と、いずれも値下がり傾向が続いています。生産コスト上昇と販売価格急落という挟み撃ちで農家経営の悪化・離農増加が懸念される一方、店頭仕入れ価格の面では米飯提供店の原価環境が一時的に緩和する兆しが出ています。
構造・原理
和食業態の商戦は「季節性」と「異業種連携」という二つの流れで動いています。旬食材を使った限定メニューが同時期に一斉に発表される現象は、原価変動の大きい食材でも「期間限定」という枠組みなら価格転嫁の説明がしやすいという事情によるものです。和食さとの秋フェア・なごやめしフェアのように、季節性のある企画に期間限定割引を組み合わせる手法は業界で定着しており、全店規模の価格訴求は客数と単価のバランスを取る目的があります。夢庵の天候連動クーポンやしゃぶしゃぶ温野菜の曜日別割引は、来店動機が弱まる特定の条件(雨天・平日)だけに絞って割引を当てる、より精緻な需要調整の形といえます。
もう一つの流れが大手ブランドの多店舗展開・業態横展開です。くうやの商業施設出店や俺の割烹の関西初進出、二子玉川のひつまぶし専門店出店は、既存店の仕入れルートや看板メニューを新エリアにそのまま移植できる点が強みですが、ザガットの「なかまた」はさらに一歩進んで、高級個室割烹の仕入れ網と看板食材を、価格帯の異なる新業態(海鮮めし)へ転用する形をとっています。旗艦店の強みを維持したまま裾野の広い客層に届けるという設計は、資本力のあるブランドほど実行しやすい構造です。業態転換の一形態として、原価管理と話題性を同時に確保する狙いが共通しています。
決算面では、増収・増益という言葉が「客単価上昇によるもの」か「利益率改善によるもの」かで意味が大きく異なります。浜木綿は客単価上昇で売上高が過去最高となったにもかかわらず、減損損失の拡大と本店休業という店舗資産・運営面の要因で減益・今期減収予想に至っており、値上げ・原価の吸収だけでは利益を守れない典型例です。サガミの本業減益も同様の構造を示す一方、大戸屋のように客数・客単価の両輪で58カ月連続の前年超えを実現している例は稀です。コメの概算金が16道県で2〜4割下落し、スーパーの平均販売価格も2年ぶりに5kg3000円台前半まで下がったことで、店頭・仕入れの両面で価格が下がる流れが定着しつつありますが、これは農家の生産コスト上昇と裏腹の急落であり、供給の安定性という中長期リスクを伴います。2027年4月からの食料品消費税引き下げ方針に対し店内飲食は10%維持の見通しで、外食の軽減税率格差拡大の懸念も残ります。
経営の打ち手
既存の看板メニューやブランド食材を軸に、価格帯の異なる新業態を展開するという道もあります。ザガットの海鮮めし業態のように、旗艦店の仕入れルートを共通化することでコストを抑えつつ品質を維持する工夫は、高級路線の店が客層を広げたい場合の参考になります。多店舗展開を検討する場合、くうやや二子玉川のひつまぶし専門店のように、既存店の仕入れルート・調理体制・接客ライブ感が移動先でも再現できるかを事前に検証する視点が欠かせません。俺の割烹の北新地進出のように、地元食材を取り入れて現地化を図る工夫も重要です。
季節商戦への参戦は、和食さとのように対象品を絞って割引額を明確に打ち出す方法や、夢庵のように天候・条件を絞った当日限定クーポンをSNSで配信する方法、しゃぶしゃぶ温野菜のように曜日別に割引率を変えて需要を平準化する方法など、規模や特性に応じた展開が考えられます。来店動機が弱い条件・時間帯にだけ絞って施策を当てる発想は、単純な値下げよりも原価負担を抑えやすい点が利点です。