いま何が起きているか
2026年9月時点、カフェ・喫茶業態では「値上げの連鎖」「価格帯のK字型再編」「秋商戦の限定メニュー競争」「本業以外への多角化」が同時進行しています。加えて、市場全体では客数が戻る一方で客単価が前年割れするという新しい兆しも出てきました。
ドトールコーヒーは7月23日から約1,200店で価格改定を実施し、ブレンドコーヒー(S)は280円から300円になりました。コロワイド傘下のC-Unitedはカフェ・ベローチェ、カフェ・ド・クリエ、珈琲館など全ブランドで9月1日から10月中旬にかけ順次値上げし、ベローチェのブレンドコーヒーRは350〜450円と、立地によってはスターバックスを上回る水準になりました。全国一律で値上げ幅を抑えるドトールと、立地別に値上げ幅を広げるベローチェとで戦略が明確に分かれています。
秋商戦の限定メニューは9月に入りさらに拡大しています。すかいらーくの「むさしの森珈琲」はシャインマスカットスイーツや金木犀・紫芋ドリンクを投入し、スターバックス・タリーズ・カフェ・ド・クリエは秋の定番食材であるかぼちゃ・さつまいもを使ったチーズケーキ系スイーツを同時期に投入しています。さらにスターバックス、ドトール、タリーズ、サンマルクカフェ、カフェ・ベローチェの主要5ブランドが2026年9月にさつまいもを使った新作ドリンクをほぼ同時期に発売しており、大手が同じ食材テーマに一斉参入する構図が例年以上に鮮明になりました。サンマルクカフェは9月5日から鳴門金時・安納芋・紅あずま・九州産さつまいもの4種を使った『薫る蜜「芋」プレミアムチョコクロ』を筆頭に、芋スムージー・芋パフェを同時展開しており、単品に複数産地の芋を組み合わせて訴求力を高める手法が目立ちます。モスバーガーの「モスカフェ」展開店舗でも、9月9日からミツカンの果実系飲料「フルーティス ざくろ」とジンジャーエール・国産りんごゼリーを組み合わせた秋限定ドリンクを投入しており、食品メーカーとカフェ・ファストフードチェーンが共同企画する形の季節メニューも広がっています。コメダ珈琲店は9月2日から「お月見祭」と銘打ち、焼き芋をテーマにした月見フルムーンバーガー・てりやきバーガーやシロノワール焼き芋など6品を10月上旬頃まで投入しており、看板商品を季節素材でアレンジする方式は業態を超えて定着しつつあります。加えて9月はコメダ珈琲店の「コメダのフラッペ 午後の紅茶 ミルクティー」など紅茶フレーバーの新商品も複数ブランドから発表されており、芋・果実に続く秋冬の定番テーマとして紅茶が並走しています。さらにスターバックスは新業態のカフェベーカリー「スターバックス リザーブ® カフェ」にて9月9日から栗の風味を活かした『コルネッティ マロンクリーム』を発売し、『クラシック ダブル トール ラテ』と組み合わせる「オータムディップスタイル」を提案するなど、栗もこの秋の共通テーマに加わりつつあります。パンとラテのセット提案は客単価アップを狙う仕組みであり、芋・栗・紅茶という食材面の話題性と、セット提案という単価戦略の両輪が同時に動いている点が特徴です。一方でサンマルクは秋の新商品としてマンゴー・パイナップル・いちごを使ったフルーツドリンクも並行して投入するなど、芋・栗・紅茶一色ではない季節提案も並行して進んでいます。マクドナルドのマックカフェも「キャラメルポップコーン」シリーズのドリンクを投入し、話題性重視の商品開発は業態を超えて広がっています。加えてドトールは希少性の高い豆を使った「ゲイシャブレンド2026」を発売、エクセルシオール カフェやDEAN & DELUCAも新作ドリンク・スイーツを続々投入しており、大手チェーンの季節限定サイクルの高速化がうかがえます。サンマルクカフェは定番シリーズ初となる“月見”テーマの「サンマルクホットサンド 月見テリヤキつくね」(620円)を9月5日から投入し、新サンド・パスタも同時に発売するなど、既存フォーマットに季節性を組み込む手法も広がっています。一方でスターバックスの700円の新作ドリンクには「物足りなさ」を指摘するレビューも出ており、価格と満足度のバランスが常に問われる状況です。カフェ・ド・クリエは2025年3月から展開するティーシリーズが累計530万杯を突破し、9月16日から秋限定の「洋なしキャラメルのロイヤルミルクティー」を投入する一方、同社は桜モチーフの「桜のシフォンケーキ」も別途発表しており、看板シリーズを軸にしながら季節を問わず限定商品を回転させる商品開発サイクルの速さが際立っています。加えて渋谷の「Chugai Grace Café」が「学園アイドルマスター」コラボカフェをリバイバル開催するほか、大阪・なんばパークス内の「#702 CAFE&」では少女漫画誌「LaLa」創刊50周年の原画展に合わせた期間限定コラボカフェが実施され、限定メニューやラテアート、限定コースターの配布で来場者の回遊性を高める狙いが見られます。虎ノ門ヒルズのTOKYO NODE CAFEでは「トニー・アウスラー展」とコラボした全6品の期間限定メニューを提供し、展覧会来場者だけでなく未来場者の来店動機づくりにもつなげる施設連動型の企画も見られます。大阪の触れ合いカフェ「ことりすまいる」は9月30日まで、キャラクターとのコラボで花札モチーフのランチプレートやスイーツプレートを展開しており、体験型カフェでも季節限定メニューとキャラクターコラボがSNS拡散・再来店の仕掛けとして定着しています。六本木のホテルレストランでも10月1日から巨峰・シャインマスカットを使ったハロウィン限定アフタヌーンティーが登場するなど、季節イベント連動企画は喫茶業態からホテルレストランまで業態を横断して広がっています。
ホットペッパーグルメ外食総研の調査によると、2026年7月の外食市場規模は東名阪3圏域計で3,055億円、前年同月比101.4%と2カ月ぶりに回復しました。延べ外食回数は前年比101.5%と好調でしたが、客単価は前年比マイナス2円と5カ月ぶりに前年割れしています。喫茶店・カフェは19年同月比125.2%と、ファストフードに次いでコロナ禍前を大きく超える回復を見せており、業態としての底堅さがうかがえます。
価格帯そのものの再編も進んでいます。松屋PREMIUM・無添蔵・タリーズ「PRIME FIVE」など上位業態の拡大と、サンマルクカフェの390円モーニングのような大衆業態拡大が同時に起き、外食全体でK字型の構造が広がっています。コメダのFC加盟店運営会社が物流会社に子会社化される一方、和喫茶業態「おかげ庵」は西日本での多店舗展開を本格化させ、2030年までに50店舗以上を目指しています。UCCグループの上島珈琲店は9月1日、創業地である東京・神保町に再オープンし、原点回帰を打ち出しました。
出店戦略の観点では、イートアンドグループのアールベイカーが9月4日、東京・品川に6坪の超小型モデル「R Baker」を開業しました。独自の冷凍生地技術・焼成後冷凍技術を活用し、限られた坪数でも品質を維持する省スペース出店の検証拠点という位置づけです。
本業以外への多角化も目立ちます。スシローのデザート部門は原宿にポップアップ「表参道スイーツテラス」を出店し、社員食堂運営のボンディッシュはお台場に新業態カフェ&バーを出店しました。八王子では「うかい」がレストラン運営の技術を生かした菓子工房併設型カフェ「アトリエうかい Cafe&Factory HACHIOJI」を9月7日にイオン八王子滝山にグランドオープンし、製造工程を見学できる体験型業態として展開します。大阪・天神橋筋商店街では抹茶と麹をテーマにしたウェルネスカフェ&ショップ「燈」が9月5日に開業予定で、飲食提供に物販を組み合わせるライフスタイル提案型の業態も現れています。喫茶店チェーンの東和フードサービスは2026年4月期に売上高133億15百万円(前期比3.9%増)と過去最高を更新した一方、営業利益は9億84百万円(同7.4%減)と増収減益に陥っていました。続く2026年5〜7月期の四半期決算では税引き利益が前年同期比14.8%増と改善が見られましたが、通期の業績予想は据え置かれており、四半期の好転が通期見通しの上方修正には直結していません。
構造・原理
原材料・物流・人件費の上昇という共通要因は業界全体に及んでいますが、大手チェーンの対応は一枚岩ではありません。「分かりやすさ・安心感」を優先する全国一律型と、「立地に応じた利益確保」を優先する地域別価格型に戦略が分かれています。値上げ・原価の観点では、どちらを選ぶにせよ数字に基づいた判断が前提になります。
ホットペッパー総研の調査が示すように、客数(来店回数)の回復が続く一方で客単価が前年割れする局面が5カ月ぶりに現れています。これは値上げによる単価押し上げ効果が一巡し、消費者の節約志向や競争激化によって単価維持が難しくなりつつあることを示唆しています。喫茶店・カフェはコロナ禍前を大きく超える回復を見せた数少ない業態ですが、単価前年割れという逆風が業態全体に及ぶ可能性も念頭に置く必要があります。
秋商戦で各社が示す「複数産地・品種の食材を使い分ける」「芋・栗・果実・紅茶など定番テーマに一斉参入する」「看板シリーズに季節限定バリエーションを継続投入する」「既存の定番シリーズに“月見”のような新テーマを組み込む」「フード×ドリンクのセット提案で単価を上げる」「IP・キャラクターや施設イベントとコラボする」といった手法は、値上げした価格を納得させ、単価維持を図るための付加価値づくりという側面を持ちます。主要5ブランドがほぼ同時期にさつまいもドリンクを投入したように、特定食材への一斉参入は単独商品の宣伝より共同的な話題形成につながりやすく、食品メーカーとの共同企画(モスカフェとミツカンの事例)も同じ狙いを持つ動きです。コメダの「お月見祭」のように主力商品を季節素材でアレンジする方式は、既存の仕入れ・製造フォーマットを維持しながら新規性を出せる点で扱いやすい手法です。カフェ・ド・クリエが秋限定と桜モチーフの商品をほぼ同時期に打ち出しているように、季節感の演出は必ずしもその時期の実際の季節と一致させず、話題性・見た目のインパクトを優先する動きも見られます。ただしスターバックスの新作への「物足りなさ」という評価が示すように、話題性だけでは価格に見合う満足度を確保できないケースもあります。TOKYO NODE CAFEやLaLaコラボカフェ、「ことりすまいる」のキャラクターコラボ、六本木のハロウィン限定アフタヌーンティーのように、施設内の飲食店や体験型カフェ・ホテルレストランが館内イベント・季節イベントと連動して来店動機を作る手法も、単独では作れない話題性を補う一つの型として業態を横断して広がっています。同時に、上位業態の拡大と大衆業態への進出が外食全体でK字型に進行し、資本と出店エリアの両面で「規模を持つ側」への集約が進んでいます。出店・閉店・M&Aや大手・チェーン動向の観点でも、価格・資本・エリアの三方向で二極化が同時進行していると捉えられます。
R Bakerの6坪モデルのように、賃料負担を抑えつつ冷凍技術で品質を担保する超小型出店は、大手が資本を使って出店密度を高める新たな手法の一例です。一方でうかいの「アトリエうかい」のように、既存のレストラン運営技術を製造工程の見える化・体験型カフェに転用する動きは、本業のブランド力を隣接業態に振り向ける業態転換・多業態化の一例といえます。
東和フードサービスの決算推移が示すように、前期は増収減益で利益率が下がった一方、直近四半期では税引き利益が2桁増と改善しています。それでも通期予想を据え置く保守的な運用が続いており、四半期の好転がそのまま楽観視につながらない点は、食材・人件費の上昇分を価格転嫁しきれない構造リスクを常に見込んでいることの表れといえます。上島珈琲店の創業地再出店のように、ブランドストーリーを軸に既存客の支持を強化する動きも、単価競争一辺倒ではない差別化の一例です。
経営の打ち手
価格戦略については、全国一律で値上げ幅を抑える道もあれば、立地別価格で利益確保を徹底する道もあります。ただし客単価の前年割れが業界全体で始まっていることを踏まえると、単価を上げるだけでなく来店頻度・回数の増加を軸に据える戦略も検討に値します。原材料・光熱費・人件費の上昇率を数字で把握し、値上げの理由を丁寧に伝えることが前提になります。
季節限定メニューは、大手のように複数品種の食材を使い分けて話題性と単価アップを両立させる道もあれば、芋・栗・果実・紅茶のような定番テーマに相乗りしてSNS発信の話題を作る道もあります。コメダの「お月見祭」のように主力商品を季節素材でアレンジし、既存の仕入れ・製造フォーマットを活かしながら話題性を維持する方法や、モスカフェのように食品メーカーの新商品と組み合わせて共同企画にする方法も、開発コストを抑えつつ話題性を作る一つの型です。スターバックスのカフェベーカリーのように、既存の主力ドリンクと新作フードを組み合わせたセット提案を打ち出すことで、新規開発コストを抑えながら客単価アップを狙う道は、規模の大小を問わず個店でも応用しやすい手法です。あえて他社と異なる季節食材で差別化を図るという道や、写真映えする見た目を重視して数量限定・期間限定で希少性を演出する道も選択肢です。ただしスターバックスの新作への評価が示すように、高価格帯の限定メニューは満足度の演出まで含めて設計する必要があります。商品開発の観点では、産直サイトの評価情報や地域生産者とのつながりを活用し、背景をメニュー表やSNSで明記して価値を伝える方法も有効です。